有明海漁民・市民ネットワーク(HP仮オープン中)

9・13最高裁判決を受けての有明海漁業者の訴え(声明)

 有明海漁民・市民ネットワークは、諫早湾の開門をめぐる請求異議訴訟の最高裁判決(2019年9月13日)を受けて、以下の声明を9月24日に発表しました。


2019年9月24日

9・13最高裁判決を受けての有明海漁業者の訴え

有明海漁民・市民ネットワーク        
  松藤 文豪(福岡 新大牟田漁協)    
  中田 猶喜(長崎 島原漁協)     
  前田 力 (熊本 荒尾漁協)      
  平方 宣清(佐賀 有明海漁連大浦支所)
*印は本件訴訟上告人

  1. 2019年9月13日、最高裁第二小法廷は、諌早湾干拓の潮受け堤防の「開門」を命じた2010年12月の福岡高裁判決に基づく間接強制への請求異議訴訟において漁業者の上告を認め、2018年7月に国側の請求異議を認めた福岡高裁判決を破棄し、福岡高裁に差し戻した。
     私たちは、この最高裁判決に基づき、福岡高裁において、「開門」を通じて、有明海の再生と、諌早湾周辺干拓地の農業振興および周辺低平地の防災対策をそれぞれ前進させるための協議を、一日も早く開始することを求める。これは、一連の訴訟において、漁業被害が認められた漁民だけの訴えではなく、有明海漁民・市民ネットワークとしての訴えであるとともに、有明海のすべての漁業者、また、漁業を基盤とする有明海沿岸地域に暮らす多くの人々の共通の願いであると私たちは考える。

  2. 2018年7月の福岡高裁判決は、漁業権が10年で更新されることを理由に、2010年の確定判決に基づく「開門」請求権が消滅していたとする国側の主張を認めた。これは漁業権の更新の度に、漁業者の権利が消滅するという暴論であった。今回、最高裁が、2018年の福岡高裁判決を「違法」と断じ、破棄したことで、司法への信頼が、首の皮一枚で維持された。福岡高裁は、2018年判決の誤りを真摯に認め、その責任の重さを認識するとともに、今後の差し戻し審において、紛争解決のための本来の役割を果たさなければならない。

  3. ここで強調しておきたいことは、農業者もまた行政によって争いに巻き込まれた被害者であり、私たち漁業者は、そもそも農業者と争うつもりはないということである。行政がこれまでの反省に立ち、真摯な話し合いが実現すれば、農業者の理解を得て開門を行うことは十分可能である。私たちが一連の裁判で求めているのは、そうした「開門」を通じて、調整池の水質を浄化し、有明海の本来の潮流・潮汐や、魚介類の産卵・生育の場である干潟や浅海域を可能な限り回復させて、自然の力によって有明海を再生させることである。それが十分に可能であることを、私たちは2002年に農水省が実施した短期開門調査で実感した。
     そもそも開門調査は、農水省のノリ第三者委員会が2001年に提言したものであり、多くの研究者が開門調査の必要性、有効性を認めている。日本海洋学会(海洋環境問題研究会)1 、日本生態学会2、日本ベントス学会3なども、開門調査の必要性を認めている。

  4. 今回の判決文で、最高裁は、2010年の確定判決が「飽くまでも将来予測に基づくものであり」「暫定的な性格を有する」などとして、国が主張した「開門」を不要とする「他の異議の事由の有無」について審理を尽くすように福岡高裁に求めている。しかし、「開門」以外のさまざまな調査や再生対策が長期間にわたって行われながらも、有明海の漁業環境の悪化に歯止めがかからず、再生への展望は開けていない。国は、7月26日の最高裁での弁論でも、有明海の漁獲高が回復傾向にあると主張をしたが、近年のわずかな水揚げの変動を誇張しているだけであり、諌早湾干拓事業の着工以降、有明海の漁獲高が激減した状況は、まったく改善されていない。この間、農水省が実施してきた有明海再生事業も、抜本的な改善に結びついたとは言えず、漁業者にとって「開門」は、有明海再生のための最後の望みというべきものである。つまり「開門」は、潮受け堤防閉め切りが有明海の環境に及ぼした原因の調査としても、水質や漁業環境の改善策としても、むしろその必要性が高まっているのである。

  5. 開門の必要性はますます高まる一方、農漁共存を実現するための話し合いの場は未だ実現していない。私たちは、今後の福岡高裁での差し戻し審を通じて、これまで実現してこなかった、農業者や周辺住民をはじめとする様々な立場の方々との、率直かつ真摯な話し合いを実現させるよう、全力で取り組む。それが、地域の人と人のつながりを分断する中で進められてきた諌早湾干拓事業の大きな転換点となり、有明海の再生とともに、有明海沿岸の地域社会再生の出発点となることを強く期待する。

以 上

1 http://jos-env.sakura.ne.jp/?page_id=15
2 http://www.esj.ne.jp/esj/Activity/index.html
3 http://benthos-society.jp/hozen.html

声明文PDF
*参考資料:諫早湾干拓事業と「有明海異変」の概要(PDF)