有明海漁民・市民ネットワーク

2022年度の有明海ノリ不作に関し、
特措法による救済と諫早湾の開門調査を求める申し入れ

  有明海漁民・市民ネットワークでは、2022年度の有明海のノリ不作と、2023年3月1日の諫早湾干拓の開門をめぐる請求異議訴訟の最高裁判決に関連して、2023年3月7日、農林水産省で野中厚・副大臣に面会し、農水大臣宛の以下の書面を手渡して申し入れを行いました(下写真)。申し入れは、よみがえれ!有明訴訟原告・弁護団と共同で行い、同日、国会議員を交えての院内集会や農水省・水産庁との意見交換会も実施しました。

院内集会、意見交換会での配布資料(PDF)



農林水産大臣 野村哲郎 様

2023年3月7日

2022年度の有明海ノリ不作に関し、
特措法による救済と諫早湾の開門調査を求める申し入れ

有明海漁民・市民ネットワーク


 今季、有明海の養殖ノリは赤潮による色落ちや暴風による被害で、大変厳しい状況が続いている。今後、漁期の終了までに昨年並みの収穫があったとしても、最終的な養殖ノリの生産枚数は昨年の5〜6割以下にとどまり、被害は2000年度の大不作を上回る可能性がある。このような状況に鑑み、被害を受けた漁業者を救済し、有明海の漁業環境を回復させるために、私たちは以下について要請する。

1)有明海・八代海特措法22条による漁業者への緊急救済を行うこと

 「有明海及び八代海等を再生するための特別措置に関する法律」は、第22条において「国は、有明海及び八代海等の海域において赤潮等により著しい漁業被害が発生した場合においては、当該漁業被害を受けた漁業者の救済について、当該漁業被害に係る損失の補填その他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」と規定している。
 ここ数年の佐賀県西南部でのノリ不作、今年度の有明海全域でのノリ大不作は、赤潮の大規模な発生が主因となっており、さらに今季は暴風雪によるノリ網や支柱の損壊も追い打ちをかけ、まさに「著しい漁業被害」が発生している。
 この被害状況においては漁業共済や積立プラスといった一般的な漁業保険による補償では全く不十分である。国は赤潮に強い生産体制の構築を支援することを検討しているようだが、それはノリ養殖に限定した中長期的な再生策の一つであって、被害を受けた漁業者の直接的な救済にはならない。今必要なのは特措法による損失補填等の措置である。2000年のノリ大不作と同レベルの被害が起こっているにもかかわらず特措法を適用しないならば、法律制定の意義が失われる。国は特措法に基づく救済措置を緊急に講じるべきである。

2)赤潮頻発の根本的な原因は諫早湾の堤防閉め切りにあることを認識すること

 有明海においてノリ不作等の漁業不振をもたらしているのは赤潮の頻発である。その原因は、熊本県立大学学長の堤裕昭氏が20年以上の研究によって諫早湾干拓にあることを明らかにしている。堤氏は2021年にその集大成と言える学術論文を発表したが、私たちは今季のノリ不作で困惑する漁業者に向けて赤潮頻発の根本的な原因を理解してもらうために、堤氏に緊急に依頼し、研究成果を一般向けに説明した文書を作成してもらったところである(別紙参照)。
 有明海奥部の1990年代後半からの赤潮の増加・大規模化は、1997年の諫早湾干拓の潮受け堤防閉め切りによって有明海の潮流が変化し、有明海の反時計回りの潮流が弱まって、有明海奥部の海水が滞留傾向になったことに起因する。今季、筑後川河口から西側の佐賀県沖の海況の回復が東側の福岡県よりも遅れたことや、佐賀県西南部の沖合が毎年、赤潮と貧酸素水塊の常襲海域となっていることなどは、堤氏の学説とも符合する。このことを農水省は正しく認識すべきである。

3)和解協議で関係者の合意を実現し、諫早湾の開門調査を実施すること

 有明海沿岸4県漁連の与党への要望を受けて、国は赤潮被害軽減への調査を行うようだが、漁連側が要望した赤潮発生原因の究明のためには開門調査が不可欠である。堤氏の学説からも分かるように、有明海異変の根本的な原因解明や環境改善のためには、諫早湾干拓の排水門を開放して海水を導入し、潮流を回復させることが必要である。この開門調査によって赤潮・貧酸素水塊の抑制効果を検証し、今後のさらなる対策を検討すべきである。また、潮流の問題だけでなく、開門による諫早湾調整池の汽水化や干潟の再生によって水質を改善し、魚介類の産卵や仔稚魚の生育環境を回復させるべきであることは、従来より多くの科学者が提唱しているところである。
 これまで有明海再生のためのさまざまな施策が行われてきたが、いずれも根本的な環境改善にはつながらず、再びノリの大不作を生じさせてしまった。もはや効果が期待される施策のうち唯一行っていないのは中長期の開門調査だけといっても過言ではない。有明海再生のために開門調査を避けて通ることはできない。
 この開門調査の実施のためには、2021年4月に福岡高裁が「和解協議に関する考え方」で示したように、関係者の合意のための協議を行うことが必要である。国は開門の余地を残した和解協議には参加できないとして拒否したが、今季の有明海の惨状を見ても、このような国の姿勢は許されるものではない。国は開門に向けた和解の実現のために主体的に力を尽くすべきである。
 また、有明海・八代海等総合調査評価委員会の「中間取りまとめ」では、再生方策の推進に当たって、漁業者や地域住民、NPOなどとの連携、取り組み状況などの発信・共有を行うことが求められている。国が有明海の再生をどのように実現していくのか、漁業者や住民に丁寧に説明し、率直な意見交換を行う場を継続的に設けることを要請する。