諫早湾潮受堤防工事に伴う濁度の低下

−水質データの変化−

訂正 第3列の図で誤ってS3を出していました.正しくはB3です.訂正してお詫びいたします.(2001/05/05訂正)

諫早湾の目次
諫早湾締め切りによる影響発生メカニズムの仮説

 諫早湾の水質について国は「締め切った前後で,周辺海域の水質において,化学的酸素要求量等に明確な差異が認められない」(中村敦夫参議院議員質問主意書への答弁書・2000年8月8日)と言っていますが,実は締め切り前から潮受け堤防の造成とともに濁度(濁り)が減少しています.農水省は「濁り=汚れ=悪」つまり,「濁度の低下」=「水質改善」という考えに立って,「水質は変化していない」と言っているのでしょう.

 実は濁りの低下こそ,有明海にとっては異常な状態であり,これが有明海の異変に深く関っている可能性があります.ここでは農水省の水質モニタリングのうち,濁りに関する実際のデータを紹介します.

 左の図は濁度のモニタリングを行なっている地点です.記号は農水省が命名した調査地点の名称で,下に紹介するグラフにそれぞれの地点名が示されています.

第1列(調整池内)

 グラフは1992年から1999年初めまでのデータです.赤い縦線は締切の時期を示します(以下同じ).

締切までは濁度の低下傾向が見られます.これは潮受堤防が造成され,潮流が徐々に妨げられていることが原因と考えられます(潮受け堤防は締め切り前から存在することに注意).

 締切後は濁りが強くなっています.これは河川から流入した泥や,波浪で巻き上げられた泥が淡水化に伴い,沈殿しにくくなったまま,調整池内に閉じ込められているためです.

 有機物の浮遊も考えられます.

第2列(潮受堤防の至近)

第3列(潮受堤防と湾口の中間)

 締切までは北側の地点ほど濁りの低下傾向が現れ,南側でははっきりした変化がありません.これは締切直前まで残っていた潮受堤防開口部が南側(S5,S6付近)にあり,潮流が続いていたためと考えられます.

 締切後は南側で濁りが低下しており,北側でははっきりしていません.これは締切まで南側で潮流が維持されていたのが,締切とともに急に潮流がなくなったためと考えられます.

 湾奥部(第2列)が湾口部側(第3列−第5列)より濁っているのは,南北岸にわずかながら残っている干潟上で波浪により泥が巻き上げられているためと考えられます.

第4列(湾口)

第5列(湾口外)

 湾口部では締め切り前から濁りがしだいに減少し,締切後,濁度の低い状態が継続してています.これは潮受堤防の造成に伴い,潮流が妨げられていることの反映と考えられます.

 B5の濁度が他の地点より高いのは,南海岸に近いので,冬季に北風による波浪の作用で干潟の泥がわずかながら巻き上げられているためと考えられます.

 この資料は『平成11年度諫早湾干拓事業環境モニタリング連絡会議説明資料(抜粋)3.水質』を転載・改変して制作しました.地図については,着色,細部の簡略化,文字の入れ直しを行ないました.また,水質グラフについては,大小2種類あるスケールを統一するとともに,配列を地図上の配列と同順に並べ替え,赤線と文字を加筆しました. 


このページを含む<諫早湾と防災>閉鎖保存版は有明海漁民・市民ネットワーク事務局が著作者から全面的な管理を委ねられ、独自に複製・配布・公開しています。著作者は諫早湾の問題からは手を引いており、質問等は受け付けていません。

長崎自然史仮想博物館 制作・著作 布袋 厚 2001年