論点整理 水門開放を拒む理由とその妥当性

 2001/02/19 関連資料追加  2001/02/28 「地元の要望」の項目追加

諫早湾の目次

 有明海の異変をめぐり,諫早湾干拓事業に大きな疑惑が生じています.のり養殖漁民などから出ている「水門開放」の要求に,農水省や長崎県はまたしても「防災」を盾にこれを拒んでいます.諫早湾干拓の前身である長崎南部総合開発計画が中止されたのち,干拓事業の蒸し返し,有明海沿岸漁協の同意取り付け,1997年の見直し運動鎮圧,そして今日の対応と,いつもいつも殺し文句として「防災」が振りかざされてきました.

 ここでは,しばしば持ち出される「具体的」理由を整理し,その妥当性を検討します.

水門開放を拒む理由妥当性関連資料
(2001/2/28 追加)

 事業を推進してほしいという地元の要望が強い.

 防災効果で高い評価を得ている.

 農水省や長崎県はシミュレーションで水深2m以上の浸水を予想しながら,これを隠して「諫早大水害を引き起こした降雨量と伊勢湾台風級の高潮が同時に諫早湾周辺地域に到来しても,洪水,高潮などの災害の発生を防止する」(諫早湾干拓事務所1994年9月発行『諫早湾干拓 事業計画の概要』)などと,地元住民に虚偽の宣伝をし,いまも取り消していない.

 地元住民は,干拓推進と異なる立場の意見を直接聞く機会を持たなかった.

 長崎県は老朽化して危険になっている海岸堤防を『干拓というものをやるがために周りの海岸堤防というものはそのまま放置しておった』(1996年7月1日長崎県議会知事答弁)など,住民を故意に危険にさらした

 地元の住民は虚偽宣伝によって正しい判断機会を奪われ,防災対策で干拓以外の選択肢が奪われたなかで,干拓推進以外考えられなくなっている.「地元の要望」は農水省や長崎県が犯罪まがいの作為によって作り出した自作自演である.

 「地元の高い評価」は,長年にわたって植え付けられた幻想があるところに,農水省などが都合の良い資料だけを提供することで生み出されている.

準備中
 防災効果がそこなわれる.

 地元の苦しみがわからないのか.

 「防災効果」とはひとことでいうと「田畑の水はけ」のこと,地元の苦しみとは「水はけ対策の労力」のこと.

 国や長崎県は「干拓というものをやるがために周りの海岸堤防というものはそのまま放置しておった」(1996年7月1日長崎県議会知事答弁)など,地元の防災対策を故意に怠ってきた(長崎県議会知事答弁).

 国などは「地元農家の救済者」であるかのように振る舞っているが,根本的には「地元の苦しみ」を作り出した加害者である.

 地元農家だけでなく有明海の広範囲で漁民も苦しんでいる.

おわび

「知事は語る 真の動機 −県議会議事録から−」諌早湾干拓事業公式資料ページに収録)は1983年2月24日議事録で,「干拓というものをやるがために周りの海岸堤防というものはそのまま放置しておった」(1996年7月1日長崎県議会知事答弁)とは別の時期でした.ご迷惑をおかけしましたことをおわびいたします.なお,1996年の議事録は追って掲載いたします.

 高潮防止効果が損なわれる.  高潮災害は台風のときに限って起こるので,数日前から対策が取れる.空振りはあっても,不意打ちはない.一年中閉め切っておく必要など,どこにもない.  
 洪水防止効果が損なわれる.  諫早市街地で洪水時の川の水位を下げる効果は全くない.1960年ごろには国や県などはこれを計算で確認し,本明川改修計画の基礎資料にしている.

 市街地の洪水軽減効果がないことは,今日においても,水理計算や観測データなど,さまざまな角度から証明できる.

 検証の結果,締切以降,今日(2001年1月)にいたるまで,河川の洪水氾濫を防いだ実績はただの一度もない(長崎県農林部は,1997年7月,「調整池のおかげで半造川の氾濫を防いだ」という旨の発表をしたが,これは何の裏付けもない,短絡的断定であった).

 本明川河口でも,「洪水と満潮が加算されて水位がより上昇する」ということは,観測データにより否定される.

アニメーションによる説明

国や県が知っていた物証

水理計算による検証結果

建設省実測値による検証

 低地が排水不良になる. 低地の排水不良は諫早湾に限ったことではなく,佐賀県でも悩まされている.対策はポンプによる強制排水やクリークの拡幅が常道.ひとり諫早湾だけが特別な方法で優遇されるべき合理的根拠はない.

諫早湾が閉め切られている現在,日降水量150mm程度で冠水が起こっており,結局はポンプによる強制排水やクリークの拡幅による「補完的な対策」が必要となっている.この際,「常道」に立ち返って根本的な排水対策を再検討する必要がある.

 冬場など渇水期にはクリークの水位が低く,低地への水の流れ込みそのものが少ないので,問題が生じることは少ない.

佐賀県の排水対策

低地浸水の原因

 ポンプを運転すると地元農家の受益者負担や労力が大きくなる. 受益者負担は,ポンプを「農業施設」としてしか捉えないところから生じる.地域防災と位置付け,県費・国費でまかなえば,不要となる.このための県税・国税による支出は,今日の世論に照らせば,間違いなく支持されるであろう.総じて,この種の問題は法令改正で対応可能である.

 運転に伴う地元の労力は遠隔操作で解消できる.現に国土交通省長崎工事事務所では所管の排水機場を遠隔操作する事業を決定している.

農水省などは受益者負担や労力などをあげてポンプの「欠点」を強調しながら,干拓事業によって,ポンプ以外に排水手段のない低地(調整池の水面よりも最大1.5m低い)を造成しようとしており,矛盾(ポンプではだめだと言いながら,ポンプに全面依存する土地を作ること)も甚だしい.

 
 水門付近で泥が巻き上げられ,調整池内のミオ(干潟上の水みち)に堆積し,排水口を塞ぎ,排水不良になる.

 地元では人力で泥を除去するのに多大の苦労をしていた.

 ミオへの泥の堆積,排水不良はひとり諫早湾に限った問題ではなく,佐賀県でも悩まされている.

 佐賀県では泥の堆積を承知で,河口の防潮水門を開けている.

 佐賀県では県の事業として,重機を投入し,大掛かりな浚渫を行っている.

 いまどき人力で泥の除去を住民にやらせること自体,長崎県の行政の怠慢か,無能さである.あるいは地元世論を諫早湾干拓推進に誘導するため,故意にやっていたことであろうか.

佐賀の水門

佐賀の泥対策

 水門を開けると強い潮の流れで漁場が荒れる. 水門開閉や上げ幅の調節により,流速を抑制できる.この技術は佐賀の八田江防潮水門や蒲田津防潮水門で実用化されている.諫早湾潮受け堤防の水門でも「排水」のさいには現に流速調整をやっている.その気になりさえすれば何でもない話を,重大な支障があるかのように言っている.

 潮流で「荒れ」なくても海は死につつある.

 環境庁との約束どおり,潮受け堤防外に「干潟再生の促進」を実現するとなれば,湾口の小長井港と西郷港を結ぶ線より湾奥に,今後6mの厚さの泥を堆積させなければならない.これをやるつもりがなかったならば,環境庁をだましていたことになる.

 干拓事業をやらなければ,「潮流による荒れ」を心配する必要など生じなかった.「水門開放に伴う漁場の荒れ」の根本的な元凶は干拓事業そのものである.今日の有明海の異変とは異なり,疑いを挟む余地はない.「荒れ」が生じれば,漁場の回復までの期間,国は加害者責任を取って賠償すべきである.

佐賀の水門

有明海干潟の健全度

諫早湾干潟の再生状況

以下 新資料3件(2001/02/19)
諫早湾 水門の位置と構造

水門の流量と流速 考え方

流量と流速の数値

 有明海の漁業不振の影響は諫早湾干拓事業によるものと特定されてない.

 天候の影響ではないか.

 調査の結果を待ってから判断する.

 水俣病・薬害エイズなど,問題が指摘されながら,さまざまな理由付けで実効性のある対策を引き伸ばし,その間に被害が拡大した例は枚挙にいとまがない.政府には過去の教訓を学ぶ能力が全くないのであろうか.

 薬害エイズ事件で,責任者が刑法犯として訴追されたことを忘れてはならない.

 
 データ上,諫早湾の水質に変化は見られない.  干拓事務所が水質調査をしているのは表層(海面付近)と中層(海面と海底の中間)だけで,底層(海底近く)の調査を最初から除外している.

 底層は酸素の供給がもっとも難しく,真っ先に水質が悪化しやすい.また,底生生物(海底の生物)の生息にとって直接の影響がある.

 したがって,干拓事務所は,もっとも水質悪化が懸念され,もっとも生物(漁業資源を含む)への影響の大きい場所の調査を最初から避けているわけである.

 都合の悪いデータが出そうなところを除外した作為的な調査では,「変化がない」という証明にはならない.

 
 水門を開ければ,農業用水のために淡水化している調整池の水に海水が混じる.  淡水化しておく緊急性は何一つない.農地造成をやめれば,淡水化は不要.造成をやるとしても,農地供用が多少遅れるだけ.

 有明海の問題は深刻で緊急性がある.

 干拓事業そのものが「防災」の緊急性を名目に強行され,「防災」の説得力がなくなると「淡水化=干拓事業の一環」を持ち出す.結局どちらも根拠がなく,自己目的化し,循環した論理となっている.

 現在,干拓事業の是非そのものが根幹から問われている.事業中止となれば不必要となる「淡水化」を持ち出すこと自体が農水省の身勝手な考え方である.

 
 水門を開ければ,事業を否定することになりかねない.  事業の存続そのものが目的になっていることを自白しているようなもの.悪い事業とわかれば,その時点で否定されて当然. 


このページを含む<諫早湾と防災>閉鎖保存版は有明海漁民・市民ネットワーク事務局が著作者から全面的な管理を委ねられ、独自に複製・配布・公開しています。著作者は諫早湾の問題からは手を引いており、質問等は受け付けていません。
長崎自然史
仮想博物館 制作・著作 布袋 厚 2001年