潮位および降水雨量と諫早湾調整池水位

諫早湾の目次
低地の浸水

1997年の資料 1999年の資料

 諫早湾の水門開放をめぐり,干拓推進論者は「水門を開放すると背後地(周辺低地)の人命・財産が脅かされる」,「海水を入れて調整池の水位が高くなっていると大雨の時に間に合わない」と宣伝し,水門開放に反対しています.

 この宣伝が正しいかどうかを検証する手始めに,ここでは調整池の水位が,降水による流れこみや干潮時の排水により,どのように変化しているかを実測データをもとにグラフにまとめました.

グラフ作成の方法

 1997年の主要な大雨(一部は中程度にまとまった降水)および1999年7月23日の集中豪雨について,1時間ごとの降水量,排水門外潮位と調整池水位をまとめたグラフを作成しました.降水量は諫早湾周辺の公機関の観測データを使用し,ティーセン法を用いて調整池流域全体を平均した1時間降水量を求めました.調整池水位と排水門外潮位は農水省の観測データです.

 参照 ティーセン法の説明(アニメーション付き)  1999年の実例(調整池流域をさらに細分)

グラフの見方

 規則正しく波型に上下している水色の線は潮受け堤防排水門外の潮位を表わします.橙色の線は排水門内側の調整池水位を表わします.青色の棒グラフは1時間ごとの調整池流域平均降水量を表わします.水位・潮位の基準は東京湾平均海面です.

 排水門周辺の海面は,排水時(調整池水位が下降している時)に局所的に盛りあがります.これは勢い良く排出された水が海面を押し上げるためです.したがって,グラフに示される潮位は,排水時に限って,潮受け堤防外の一般的な潮位よりも高くなります(これまでの実例では最大で20cm程度).

グラフからわかること

降水量と水位上昇の関係

 調整池の水位の傾きをみると降水量100mmあたり,調整池水位が50cm程度上昇しているのがわかります.これは水位-1mから0mの観測結果です.水位がさらに上昇すると調整池の水域面積が拡大するので,上昇幅は小さくなります.内部堤防が完成すると調整池面積がほぼ半減し,水位上昇の割合は現在より7割増程度となります(九州農政局1990年測量図に基いて算出).具体的に言うと,干拓事業が完成すれば120mm程度の雨で水位が1.0m上昇することになります.海水を入れてわずかでも水位が上がることには絶対反対しながら,事業が完成すれば逃れる術のない大雨時の水位上昇幅拡大を容認する干拓推進論指導者の論理は矛盾しています.彼らが言う「防災の悲願」には真剣さがありません.

排水による水位低下

 1回の干潮で排水により60-80cm水位を低下させているのがわかります.これは大雨で調整池に流れこみがある状態での話です.したがって,平常時にはもっと速く水位が下がることになります.干拓推進論者は海水を入れると調整池の水位が高くなり,防災効果が損なわれると主張します.しかし,今回の結果から,ふた潮(1日)以上前から排水すれば,大雨に備えることが可能だといえます(干潮位や満潮位はどちらも1回おきに高くなったり低くなったりする性質があり,小潮時には高いほうの干潮位が-1.0mまで下がらない場合があるので,その余裕をみる).大雨は大気が高温多湿,不安定となる場合(太平洋高気圧の周辺部,前線,低気圧,台風)に限られ,広域的な予報により事前の対応が可能です.農水省がさかんに「気象庁の予報で雨を見逃した」と宣伝しているのは,農水省が広域予報用資料を諫早湾の局地予報に流用するという誤った使い方をした結果です.農水省が鬼の首でも取ったように持ち出している1999年7月23日の集中豪雨の例でも,前日早朝から長崎県内に降水の予想が出ており,長崎県南部の降水確率は40%となっていました.

1997年の資料 1999年の資料


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長崎自然史仮想博物館 制作・著作 布袋 厚 2001年