1997年6-8月の諫早市調査による湛水範囲

(注意)このページは当初「公式湛水範囲」という題名をつけていました.これは「民間調査」に対する反対語としての「公機関による調査」との意味で使っていましたが,「公式見解」「公式発表」などという意味に受け取られる恐れがあるので,「公式」という用語の使用を取りやめました.湛水は範囲を精密に決めるのが非常に難しいので,その精度にはおのずと限界があります.あくまでもおおよその目安としてご覧ください.(1999/11/5)

諫早湾の目次
低地の浸水

 ここに示すのは1997年6-8月の諫早市役所の調査結果による農地の湛水(たんすい)範囲です(長崎自然史仮想博物館で作図し直しました).湛水とは簡単に言うと,水の逃げ場がないか,あっても狭すぎるため,水が「たまる」ことです.たまり水ですから流れがほとんどなく,湖のようになります.浸水とか冠水とか言う場合は,川から水があふれたり,山から流れ下ったりして,流れのある水に浸かる場合も含まれます.

 地図の中にある数字は,ひとまとまりの湛水範囲の面積(ha)です.これらの合計は図左下の「諫早市小計」の数値になります.なお,諫早市以外については資料未収集のため図示していません.

 赤い線は道路です.緑の破線は山麓線です.それより諫早湾側が干拓地で,満潮時に海面下となります.青く塗ったところが湛水の範囲で,水深20cm以上の場合を湛水と定義してあります.また水位や地盤高はすべて東京湾平均海面からの高さです.

 諫早湾周辺低地の水路系統を参照いただきますと浸水のメカニズムをより深く理解できます.

 諫早市小野干拓地の地名を参照ください(諫早市と森山町の境界線も示してあります.InternetExplorer3.0 以上または Netscape Navigator 3.0 以上でご覧いただいている場合,もうひとつ画面が表示されますので,並べて見比べるときは画面の大きさや位置を適当に調整してください).

1997年6月28日

 本明川沿いに小規模な湛水が見られます.また,海岸沿いでは吉永開のそばに湛水が見られます.この日の調整池の最高水位は-0.36m,小野島流域半造川篭以東の諫早市内)の最低地盤高は+0.4m,諫早市内の最低地盤高は0.0mなので,これだけで考えると湛水しないはずです.
 湛水の原因は本明川が増水し,不知火観測所(地図では河口近くで道路が川を横切っているところ)で最高水位が+1.56mに達するなど,地盤高を超えたためです.
 このとき小野島流域に降った雨の3割が排水機場のポンプで強制排水されました.

1997年7月9日

 本明川河口右岸の梅崎篭から松崎篭のあたりに小規模な湛水が見られます.この日の不知火観測所水位は早朝から+1.0m前後あり,松崎・梅崎の地盤高(+0.7m前後)を上回っています
 この日は朝から深夜まで3箇所ある排水機場のポンプがフル稼働して強制排水が続きました.

1997年7月10日

 広範囲に湛水が見られます.注意してみると,いくつかのまとまりがあります.本明川および支流半造川沿いの半造川篭・葭原開から梅崎篭にかけての一帯と本明川の河口付近の湛水は,本明川の増水で不知火観測所水位が+2.09m(河口の長田桟橋で+1.5m)に達し,地盤高を大きく上回ったことによると考えられます.吉永開以東の海岸沿いの湛水は東側ほどひどくなっていますが,これは海岸沿いに走る水路の排水樋門が本明川河口(文久開の突端)にあるため,そこから見ると,より上流にあたる東側の水面が高くなったためと思われます.
 注目点は一番篭・亀崎篭からその西方にかけての内陸部です.この一帯の湛水は海岸での排水不良というより,古い時代の干拓地の形成過程を反映した内陸水路の走り方に対応しています.外長寿篭付近の湛水も同様です.
 この日も朝から夜半までポンプがフル稼働して強制排水しました.

1997年7月11日

 本明川沿いの湛水は数分の一に減っています.しかし,吉永開以東の海岸や一番篭・亀崎篭からその西方の一帯では依然として湛水が続いています.これらはいずれも,水路の走り方から見ると内陸にあたり,海岸での排水不良ではなく,海岸に至るまでの経路に問題があることを示しています.
 この日の不知火観測所の水位は未明に+0.45mまで下がり,一時的に地盤高を下回った後,最高時は+1.47mまで上昇しています.排水機場は終日フル稼働しています.

1997年7月12日

 最後まで一番篭・亀崎篭一帯の内陸で湛水が続いています.この日,午前中に3箇所の排水機場は順次運転を停止しました.この間,調整池の水位は最高でも+0.13mで最低地盤高の+0.4m以下なので,単純に考えると小野島流域に関しては,終始排水可能なはずです.しかし,実際には本明川自体の増水や内陸での通水障害で,湛水がおこっているわけです.
 7月5日から12日まで小野島流域に降った雨のうち,5割がポンプにより強制排水されました.
 流域に降った水量の計算法(アニメーションつき解説)を参照ください.

1997年8月12日

 7月10日の湛水分布によく似ています.やはり,湛水のパターンに規則性があるようです.不知火観測所の最高水位は+1.02mで,6時間にわたり,梅崎や松崎の地盤高を超えています.この日も排水機場が午前中から夕方までフル稼働して,小野島流域に降った雨の3割が強制排水されました.

このページを含む<諫早湾と防災>閉鎖保存版は有明海漁民・市民ネットワーク事務局が著作者から全面的な管理を委ねられ、独自に複製・配布・公開しています。著作者は諫早湾の問題からは手を引いており、質問等は受け付けていません。

http://www.fsinet.or.jp/~hoteia 制作・著作 布袋 厚 1999年