佐賀県有明海沿岸の防災対策

防災の最前線 海岸堤防

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佐賀県有明海沿岸の防災対策 見出し

 佐賀県の有明海海岸は鹿島市の七浦干拓から東がすべて干拓地であるため,頑丈な堤防で保護されています.このうち,戦後に農林省が関わって造成された国営干拓や代行干拓の堤防は農水省構造改善局の管轄となっています.それ以外の古い干拓地の堤防は建設省直轄事業により堤防強化・かさ上げが行われています.
 

芦刈海岸の建設省堤防

 有明海の海岸堤防55kmのうち22kmが建設省直轄事業で整備されている.建設省堤防の天端高(てんばだか)は標高7.5m,道路面(幅5m)は上の段が6.0m,下の段が3.0mである.トラックの大きさと比較するとよい.堤防幅は50mで,東与賀海岸では耐震性強化のためさらに海側に拡幅している.

 

鹿島海岸の建設省堤防

 石組みの平坦面(人の大きさと比較するとよい)は堤防の一部で,軟弱な泥を押さえて,堤防を安定化させる役割を果たす.左の黒っぽいところは干潟である.

東与賀海岸の建設省堤防

超軟弱地盤とその対策”を参照
 

有明干拓の農水省堤防

 諫早では「軟弱地盤なので堤防をかさ上げすると倒壊のおそれがある」と海岸堤防の強化をかたくなに拒んできた農水省が,同じ軟弱地盤の有明干拓では大掛かりなかさ上げ・拡幅工事をおこなっている.写真右半分が在来堤防,左半分がかさ上げ部分である.堤防全体に盛り土して,天端には鉄筋コンクリートの傾斜壁が設けられている.

有明干拓堤防の消波ブロック(いちばん手前がかさ上げ部分)

 海側は約45°の斜面になっており,消波ブロックで覆われている.干潟の中の押え捨石が顔をのぞかせている.

有明干拓の堤防断面図

 濃い青の三角形は新しい鉄筋コンクリート壁(天端標高7.7m,建設省のそれをしのぐ),その左の白い部分は消波ブロック,青緑の部分が在来堤防,右半分の淡橙色の部分が新しい盛り土をあらわす.赤い数字(あとから写真に書き込んだ)は標高を示す.



農林水産省直轄有明海岸保全事業の説明板

 以下に説明文をそのまま紹介する.

事業の概要

 ここ有明地区の農地海岸保全事業は,佐賀市から南西部に約20km離れた有明海の湾奥部に位置する白石町,有明町の2つの町にまたがった干拓堤防の補強工事です.
 この干拓工事は,昭和8年3月から昭和44年3月にかけて完成し,この堤防で保護されているのは,2,154haの農地と,約2,100戸の住居並びに約8,000人の住民です.ところがこの干拓地を護ってきた堤防は,非常に軟らかい地盤(有明粘土)の上に築造されているため,沈下などで近年では傷みが激しくなっています.この様な状態で放置すると台風や高潮が襲ってきた時,堤防の安定が保たれなくなる危険性があります.従って早急に堤防の補強を行って,自然の災害から干拓地を護り安心して住める環境にしなければなりません.
 この目的のために昭和52年から農林水産省の直轄事業として九州農政局有明海岸保全事業所が下記の工事を実施しています.
 なお,早期完成のため皆様方のご協力をお願い致します.

前面工(押え捨石,消波ブロック)
堤体工(波返かさ上げ,法面舗装,道路舗装)
排水樋門工(3m×2m×9連)


 

廻里江工区海岸保全事業の説明板

 建設省や農水省の直轄事業以外にも廻里江工区や国造干拓(空港のある所),大詫間干拓など至る所で佐賀県による高潮対策が行われている.「この事業は農林水産省の補助事業です」という字が見える.

 この資料を作成するにあたっては,1998年秋の現地調査をはじめ,多くの方のご協力を頂きました.


このページを含む<諫早湾と防災>閉鎖保存版は有明海漁民・市民ネットワーク事務局が著作者から全面的な管理を委ねられ、独自に複製・配布・公開しています。著作者は諫早湾の問題からは手を引いており、質問等は受け付けていません。

長崎自然史仮想博物館 制作・著作 布袋 厚 1998・2000年