1997年7月6日−7月12日の大雨と防災効果論の検証

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埋津の流量

 雨量と水位の関係を仲立ちするのは流量(1秒間に何トンの水が流れるか)である.下図は流量実測値,水位から計算した流量,さらに雨量から求めた流量を示す.比較のために流域に降った水量(雨量と面積をかけた数値)を同じ単位で示す.

(注)雨量から流量を計算するにはいろいろな方法があります.ここでは貯留関数法を用いています.

 雨量から求めた流量と水位から計算した流量とは1−2割の差があるものの,消長パターンはよく一致している.ピーク時の流量を推定するには雨量から求めた流量を2−3割増して考える必要がある.なお,7日間の流量の総計については,水位からの計算と雨量からの計算の間で,差が1%未満にとどまった.
 最大の流量は毎秒約70トンである.ピーク流量と直前のピーク雨量の比(流出係数)は0.9程度である.また,流量は1時間ごとの雨量に比例するのではなく,数時間の累積に対応していることや,雨が止むと半日で流量が3分の1に減少していることが読み取れる.したがって洪水の流量を左右するのは1週間の合計ではなく,1日あるいは数時間の雨量であることがわかる.
 試みに第1波の前後の8日16時から10日3時までの雨量256.3mm(埋津流域平均)がないものとして,8日16時までの雨のあと,直ちに10日3時からの雨が続いたと仮想した場合に算出される仮想期間中の流量を左図の青線で示す.これに対して,256.3mmを含めた現実の降水の経過をもとに算出した10日3時からの流量を赤線で示す.
 初め25トン/秒あった差は12時間後に5トン/秒に減少し,24時間後にほぼ解消している.シミュレーションの結果,ピーク流量を一致させるには仮想の雨の11時間目に7mmの雨を追加するだけでよいことがわかった.つまり流量に関していえば,250mmを超える雨の影響が2日もたたないうち7mm分に減少するわけである.いいかえると,大雨が数日間連続しても,流量に対する雨量の累積効果は小さく,長めに見積もっても2日以上前の雨量の影響は出ないということになる.
 1997年7月の大雨に際して,長崎県農林部などは「7日間の総雨量(累積雨量)が1957年諫早水害に匹敵するのに川が氾濫しなかった.だから諫早湾干拓事業による防災効果が十分に発揮された」という趣旨の宣伝を繰り広げた.
 この宣伝では1957年災害時の24時間雨量と1997年の7日間雨量を同列に扱い,総雨量が同じことを論拠にしている.今回シミュレーションにより,両者を同列にあつかう比較方法の誤りが確認された.

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http://www.fsinet.or.jp/~hoteia 制作・著作 布袋 厚 2000年