佐賀県有明海沿岸の防災対策

泥の堆積とその対策

諫早湾の目次
佐賀県有明海沿岸の防災対策 見出し

 諫早湾の水門を開けて海水を入れるのに反対する大きな理由として,「水門から逆流した海水が泥を運んできて,澪(みお)すじ=干潟上にできた(あるいは人為的に掘られた)溝に泥(潟土)が堆積し,排水を妨げる」というものがあります.しかし,泥の堆積は佐賀県でも普通に見られ,排水を妨げているところもあります.佐賀県ではこれに適応した防災対策が進められています.河口の水門を締め切りさえすれば,泥の堆積が防げるところでさえ,あえて海水を逆流させ,泥の堆積を容認しているのです.

 また「諫早湾の水門を開けると鳴門の渦潮より速い流れになり危険だ.水門を開放しておくと水位が従来の平均海面よりも高くなる」ともいいます.挙句の果てには「開閉調節が煩雑だ」とも言います.しかし,佐賀県では水門の上げ幅を調節したり,天候や潮の状況によって開閉を切り替え,見事に水位や流速を制御しています.

 佐賀で普通に行なわれていることを,長崎県の指導者や技術者には実行する能力がないのでしょうか.それとも「佐賀の人間は我慢しろ.諫早は特別待遇だ」とでも言いたいのでしょうか.

 

廻里江水門

 廻里江水門は海水を逆流させません.そのため満潮時に泥を含む海水が水門前で停滞し,泥を沈殿させます.廻里水門の400m南南東にある川表樋門はこのあたりで最も重要な水路の西端にあります.この川表樋門の前に泥が堆積し,招き戸(下写真参照)が開かなくなり排水ができなくなっています.農水省ではこの水路から排水するため,1983年に有明2号排水機場を設置しています(排水能力毎秒10トン).

川表樋門

 左は川表樋門.招き戸の大半が泥に埋まっている.

 招き戸は水圧で干潮の時に開き,満潮の時に閉じる自動開閉装置で動力を要しない.下は深町水門本庄江防潮水門の5km上流)に付属している招き戸.


 

緑郷樋管

 六角川河口堰の700m南西にあります.一面に生えているのはヨシです.樋門の前に泥がたまっています.

 

佐賀江川加与丁大橋付近

 佐賀江川にあります.この下流2kmに蒲田津防潮水門があり,開閉調節により,潮を入れたり止めたりしています.樋門の前に泥が堆積して排水を悪くしています.これを防ごうと思うなら,蒲田津防潮水門を締め切ってしまえば簡単です.しかし,泥の堆積を承知で潮を入れています.

 

鹿島川のしゅんせつ

 鹿島川は規模が諫早の本明川に近い二級河川です.河床に泥がたまったので,しゅんせつを行ない,河道を確保しています.写真中央の一段高いところがしゅんせつ前の干潟面,その右がしゅんせつ後の干潟面です.右端近くに見える樋管の排水機能もこうして維持されます.

 

八田江のしゅんせつ

 八田江は防潮水門をとおして海水が逆流し,8km近く上流まで干潟が堆積しています.写真は水門から5kmほど上流(佐賀市・川副町境界付近)の干潟です.カニやゴカイが生息しており,干潟のひび割れがないところをみると,時々海水を大量に入れていると考えられます.
 諫早流の論理なら「八田江防潮水門を締め切れ」ということになりますが,佐賀では締め切らずに泥の堆積を容認し,堆積したら除去するという方法を採用しています.

 

本庄江防潮水門の説明板

 本庄江防潮水門は特別な場合を除いて,いつも全開になっています.水門を逆流して泥が堆積すると水門を閉めて除去します.そのほか,高潮時などにも閉じられます.


このページを含む<諫早湾と防災>閉鎖保存版は有明海漁民・市民ネットワーク事務局が著作者から全面的な管理を委ねられ、独自に複製・配布・公開しています。著作者は諫早湾の問題からは手を引いており、質問等は受け付けていません。

長崎自然史仮想博物館 制作・著作 布袋 厚 2000年