有明海漁民・市民ネットワーク

諫早湾開門請求異議訴訟:最高裁に提出する意見書への賛同団体を募集

 有明海漁民・市民ネットワーク(漁民ネット)は、最高裁で審理されている諫早湾の開門をめぐる請求異議訴訟に関して、福岡高裁差し戻し審判決の破棄を求める要請書を10月20日に提出する予定です。下記の通り、賛同団体を募集していますので、ご協力をよろしくお願いします。

2022年9月27日

「諫早湾開門請求異議訴訟差し戻し審判決の破棄を求める要請」に
ご協力ください

有明海漁民・市民ネットワーク   
よみがえれ!有明訴訟弁護団・原告団

全国の団体のみなさま

 諫早湾干拓事業を巡る問題では、2010年12月に、福岡高裁が、事業によって深刻な漁業被害が発生したという漁業者の訴えを認め、国に対して、5年間にわたる潮受け堤防排水門の常時開放(以下、開門)を命じる判決を下しました。当時の民主党政権がこれを受け入れたことで判決が確定しましたが、国(農水省)は、開門の義務を履行せず、確定判決の強制執行の停止を求める裁判(請求異議訴訟)を2014年に起こしました。2018年7月には福岡高裁が「漁業権10年消滅論」を認めて国の逆転勝訴となりましたが、2019年9月に最高裁はそれを認めず福岡高裁に差し戻していました。福岡高裁の差し戻し審では、2022年3月25日に判決があり、再び国を勝訴させました。判決は、請求異議訴訟では本来許されない事実上の「再審」を行い、しかもその事実認定が間違っているなど、極めて不当な内容でした。そして、再び最高裁に上告され、現在審理が続いています。

 最高裁で、もし国が勝訴し、確定判決の強制執行の停止が確定すれば、それは全国で国などと闘っているあらゆる訴訟に影響します。なぜならば、たとえ私たちが勝訴判決を確定させても、国は判決の義務を履行せず、請求異議訴訟を起こして確定判決の強制執行を停止させることができる新たな判例ができてしまうからです。国が確定判決を守らないことを裁判所が認める結果となり、司法制度そのものが成立しなくなってしまうからです。

 また、今回、国の請求異議が認められてしまうと、開門に強制力を持たせる判決がなくなる一方で、開門差し止めの判決は確定していることから、開門を求める運動が非常に厳しい立場に追い込まれます。

 そこで、訴訟で国と闘っている団体をはじめ全国の団体のみなさまにお願いがあります。私たち有明海漁民・市民ネットワークが作成した最高裁への意見書(下記)に賛同していただけないでしょうか。

 私たちは10月20日をめどに最高裁への意見書と賛同団体名簿の提出を行います。それまでに全国からの声が集まることで、最高裁に私たちの意見をより強く訴えることができます。諫早湾・有明海だけでなく社会全体に関わる問題でもありますので、みなさまのご協力をよろしくお願いします。

 賛同していただける団体は、以下のウェブフォームにご記入いただくか、Eメールでご連絡ください。(第一次募集期限:2022年10月15日)

 また、独自に意見書を作成して提出していただくことも歓迎します。その場合、下記の有明海漁民・市民ネットワーク事務局宛にお送りいただければ、最高裁にまとめて提出いたします。全国からの要請を集計して最高裁に強く訴えたいと思いますので、ご協力をよろしくお願いします。

【賛同フォーム】
https://forms.gle/2GHR1HFRvabt4doC8

【賛同連絡先】
有明海漁民・市民ネットワーク事務局
Eメール ph☆ariake-gyomin.net(☆印は@に置換)
TEL/FAX 03-3986-6490


2022年10月20日

最高裁判所第三小法廷 御中
(事件番号:令和4年(オ)第900号、令和4年(受)第1134号)

諫早湾開門請求異議訴訟差し戻し審判決の破棄を求める要請

有明海漁民・市民ネットワーク

 諌早湾干拓潮受け堤防排水門の常時開放(以下、開門)を命じた2010年福岡高裁確定判決(以下、確定判決)についての請求異議訴訟差し戻し審で、2022年3月25日、福岡高裁は、国(農水省)側の請求を認め開門の強制執行を認めないという判決(以下、原判決)を下しました。この判決の上告審が、現在、最高裁貴法廷で審理されています。私たちは、以下に述べる理由により、原判決の破棄を求めます。

1. 請求異議訴訟における事実上の「再審」は認められない

 請求異議訴訟は、判決後(正確には口頭弁論終結後)に生じた事情の変動を理由に、確定判決の執行力の排除を求める裁判です。判決前の事実関係を審理し直すことは再審であり、請求異議訴訟ではありません。ところが原判決では、開門を5年間に限った確定判決を「仮定的・暫定的な利益衡量を前提にした特殊な判決」であるとして、判決後だけでなく判決前の事実関係も「現時点で改めて検討・判断するのが相当」と、確定した判決の基礎となった事実にまで踏み込んで訴訟を蒸し返す事実上の「再審」を行いました。
 しかし、原判決が命じた5年間に限った開門とは、漁業行使権に基づく妨害排除請求権として「開門による漁場・漁業環境の改善に有意な変化が現に生ずるため必要かつ不可欠な最低限の期間」を認めたものであり、「暫定的・仮定的性格」は全くありません。既判力を有する確定判決について、こうした誤った前提で、ルール違反である事実上の「再審」に踏み込んだ原判決は、当然破棄されなければなりません。

2.「漁獲量は増加傾向」など、事実を誤認した不当な判決である

 しかも、原判決は事実誤認による判断が各所に見られます。中でも、確定判決が判断の対象としなかった魚類以外の漁獲量が「増加傾向」にあることをもって「侵害の程度は軽減し、今後もこのような傾向が見込まれる」と判示していることは問題です。具体的には確定判決後のシバエビの漁獲増加を指していますが、これは全体の中での特異な現象であり、2018年にはシバエビの漁獲さえも減少しています。潮受け堤防閉め切り以前からの長期的な視野で見れば、漁獲量の減少は続いています。原判決においても「潮受け堤防閉め切り」と「漁獲量の有意な減少」との因果関係を肯定しています。にもかかわらず、シバエビの一時的な漁獲増をもって確定判決の執行力の排除を認めており、著しく論理性を欠いた不当な判決です。

3.国の勝訴は三権分立の法秩序を乱す新たな判例となる

 確定判決に基づいて漁業者側が開門を求めることを「権利乱用」と認定した原判決は、権利乱用の要件を「著しく信義誠実の原則に反し、正当な権利行使の名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要する」とした昭和62年の最高裁判例から大きく逸脱しています。すなわち、原判決は確定判決を国が守らないことを司法が認めたものであり、当然破棄されなければなりません。
 もし国の主張が認められるのであれば、これが新たな判例となり、三権分立の法の秩序は一気に乱れ、司法が成り立たなくなります。「意に沿わぬ判決には従わず、既成事実を重ねれば、いずれほごにできる。国がとった手法は、社会に深刻なモラルハザードを招きかねない」(朝日新聞社説2022年3月30日)などメディアや学者から様々に指摘されているとおりです。
 開門をめぐる司法判断の統一という視点にのみ執着し、理不尽な国の主張をそのまま認めることは、社会全体に取り返しが付かない深刻な影響をもたらすことになります。

4.前提条件をつけない和解協議以外に解決の道はない

 その意味で、開門をめぐる問題は、差し戻し審の過程で示された「和解協議に関する考え方」に沿った解決しかありません。この「考え方」では、「柔軟かつ創造性の高い解決策を模索する」、「必要に応じて利害関係のある者の声にも配慮し」、「当事者双方が腹蔵なく協議・調整・譲歩することが必要である」といったことが述べられ、開門しないことを前提とする漁業振興基金創設による和解案に固執する国(農水省)に対して「国民の利害調整を総合的・発展的観点から行う広い権能と職責を有する控訴人(国側)の、これまで以上の尽力が不可欠」と指摘しています。解決のためには前提条件をつけずに和解協議を行うことが重要であり、最高裁はその道筋を整える役割を果たすべきです。

 以上、私たちは、最高裁が、三権分立の社会や法秩序に与える影響を慎重に検討し、公正な判断により、原判決を破棄することを求めます。国は有明海再生のための様々な事業を行っていますが、有明海の漁業被害は深刻化するばかりです。残された道は開門しかありません。開門確定判決は被害漁民のみならず開門を願う全国の市民にとって唯一の希望です。司法の賢明な判断と指導によって、和解による解決の道が開かれることを切望します。


※関連資料(PDFファイル)