* 院内集会、意見交換会での配布資料(PDF)
2023年3月7日
声明:諫早湾開門請求異議訴訟・最高裁決定に満腔の怒りをもって抗議する
有明海漁民・市民ネットワーク
代表 松藤 文豪
2023年3月1日、最高裁は、諫早湾干拓潮受け堤防の「開門」を命じた2010年福岡高裁確定判決についての請求異議訴訟で、漁業者側の上告を受理せず棄却する決定を下した。決定は、漁業者側が提出した上告理由の実質は事実誤認や単なる法令違反を主張するもので民訴法312条が定めた上告理由の要件に該当しないとし、民訴法318条により受理すべきもの(原判決に最高裁判例と相反する判断がある事件など)には当たらないと一方的に決めつけて、実質的な審理を門前払いした。
しかし、確定判決の拘束力は極めて重く、最高裁は昭和62年の判例において厳格な基準を明示している。本件は、こうした確定判決の執行力を排除してよいかどうかが争われているのであり、司法制度の根幹を揺るがす重要な争点であることから、慎重かつ丁寧に審理されなければならないはずである。
また、原判決は、開門を5年間とした判決を「仮定的・暫定的な利益衡量を前提にした特殊な判決」と解釈し、確定した判決の基礎となった事実にまで踏み込んで訴訟を蒸し返した。請求異議訴訟では許されない事実上の「再審」であり、最高裁がこれを認めることは許されない。ところが、最高裁は丁寧に審理することなく、一方的に確定判決の執行力を排除する決定を下してしまった。
諫早湾が干拓事業によって閉め切られた1997年以降、水質の悪化や潮流の変化によって赤潮や貧酸素水塊が頻発するようになり、魚介類の水揚げは減少の一途をたどっている。ノリ養殖は2000年度に大不作が発生し、その後も不安定な生産が続いていたが、今季再び大規模な生育不良に見舞われている。こうした有明海の漁業被害は沿岸4県漁連が政権与党に特措法に基づく救済を要請せざるを得ないほどに深刻さを増しているのであり、「漁獲量は全体的に増加傾向」などという事実誤認に基づいた原判決の判例違反は明らかである。
それにもかかわらず、最高裁が実質的な審理に踏み込まないのは、「非開門で統一的判断を」という国からの要請に従った結論ありきの決定であって、論理的な説明ができないからであろう。しかし、この判決は日本社会に重大な影を落とすことになる。確定した判決を守らなくてよいという、三権分立が健全に機能した民主主義国では到底考えられない決定を司法が下してしまったのだから、もはや司法は死んだも同然である。
しかし、私たちはこれで怯むわけにはゆかない。有明海関係者のみならず、人々の生活の権利や自然環境を守るために国を相手に裁判で争うすべての国民と連帯し、有明海再生を実現する。
決定を受けた農水大臣談話では、『「対立」から「協働」へと関係を再構築し、有明海の未来をともに切り拓いていくために、話し合いにより有明海再生を図っていく』とし、訴訟当事者にできる限りの寄り添った対応を行うとしている。ならば、平成29年の農林水産大臣談話の趣旨である開門によらない有明海再生のための基金創設案に固執することなく、開門の是非を前提にしない本質的な話し合いができるはずである。更なる訴訟の乱立は地域の分断を継続させると農水大臣は述べているが、訴訟の乱立を招いたのは確定判決の履行に抵抗する国の不誠実な姿勢である。こうした国の姿勢を不問にして「ごね得」を認めた最高裁決定をもって、国が非開門を話し合いの前提とするならば分断が解消に向かうことはないだろう。
諫早湾干拓問題がこれまでさまざまな「対立」を生んできたのは、対話を軽んじ合意形成に力を尽くしてこなかった国の責任が大きい。福岡高裁は2021年4月に示した「和解協議に関する考え方」で「国民の利害調整を総合的・発展的観点から行う広い権能と職責とを有する控訴人(国)の、これまで以上の尽力が不可欠」であるとしている。有明海再生に向けて「協働」していくために、この「考え方」に沿った真摯な対応を国に求める。