有明海漁民・市民ネットワーク

声明:有明海再生に向けた真摯な話し合いを求めて

 2024年6月1日、農水省は諫早湾干拓の開門を行わないで有明海の再生を進めるとする2023年3月の農水大臣談話や再生策に関する説明会を、開門訴訟の原告や弁護団を対象に開催しました。有明海漁民・市民ネットワーク(漁民ネット)のメンバーも、原告や一般傍聴人としてこの説明会に参加しました。

 1週間後の6月9日に大牟田市内で行われた漁民ネットの総会では、今回の説明会も含め、諫早湾干拓問題や有明海再生の現状に関して議論を行い、以下の総会決議を取りまとめまとめて、6月18日に声明として公表しました。

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【声明】有明海再生に向けた真摯な話し合いを求めて

有明海漁民・市民ネットワーク

 去る6月1日、農水省は、諫早湾の開門請求権を有する勝訴原告漁民および弁護団への説明の場として、開門によらない有明海再生をめざす国の方針を伝えた。しかし、漁民側からは、長年続く漁業被害の悲痛な訴えや調整池汚染水排出への抗議、有明海再生への切羽詰まった願いが語られた。これに対し、農水省は、従来の有明海再生策の延長線での弥縫策の説明をするばかりで、漁民側から様々な疑問が投げかけられた。「開門請求権を放棄してほしい」と言いながら、有明海再生の加速策なるものの具体像は何ら示されず、その虫のよさに呆れるばかりである。苦渋の決断で非開門に同意した沿岸漁協にとっても、国の無策にハシゴを外された想いではないのか。

 タイラギ漁をはじめとする漁業が支柱になって地域経済が持続的に回っていた佐賀県太良町は、諫早湾閉め切り以降の漁業不振で今や消滅自治体への危機が迫っている。漁船漁業が不振のなか有明海漁業を支えてきたノリ養殖業は、佐賀県西部以南では十年以上にわたり色落ち被害が続き、経営難や将来への不安から一家を支える若手漁民が廃業を余儀なくされるなど、深刻な事態になっている。東部沿岸でも二年連続で採取量が低迷し、わが国のノリ養殖業全体の危機を招いている。そして、漁種や地域を問わず後継者難に陥っており、漁業消滅の危機にある。有明海再生は急務であり、地域再生につながる根本的な施策を官民が力を合わせて取り組まなければならない局面である。そうしたなか、昨年3月に示された農水大臣談話では、「対立から協働へ」「関係者一同が団結して、目的を共有しながら取組を進め」ていくことが呼びかけられた。私たちは、この協働の呼びかけは大賛成である。そしてそのためには、あれこれ条件を付ける隙はない。有明海再生のためには何が必要か、前提を付けず虚心坦懐に話し合い施策を実行していく時である。

 先の説明会では、漁協幹部は実際の漁民ではなく漁民の声を代弁していないこと、実際の漁民の声を聞くべきことが参加者から語られた。農水省は説明会で残された課題に答える機会をつくる約束をしたが、今度はぜひ参加者に条件を付けずに疑問に答えてほしい。私たちは、有明海4県漁民の真の代表として、農水省との話し合いに臨み、有明海再生に取り組む所存である。

2024年6月9日
有明海漁民・市民ネットワーク定期総会 決議