川の名前を見るには有明海沿岸の地図を参照ください.
諫早湾干拓を推進する人々は,「締め切りによって失われた干潟は有明海の干潟の7%に過ぎないので問題ない」といいます.確かに面積を単純に比較するとそうなるのかもしれません.しかし,有明海全体が諫早湾の干潟と同じわけではありません.細部に目を向けなければ,ほんとうに「問題ない」と言い切ることはできません.
右図で,黄色の部分が泥干潟,灰色の部分が砂礫干潟です(福岡・熊本県側は現地を見ていないので図示していません).大潮のときにはもっと広い範囲が干出します.赤丸は写真の撮影場所です.太い黒線は諫早湾締め切り堤防です.なお,諫早湾は有明海の一部です.
諫早湾と同じ泥質の干潟は佐賀県鹿島市から福岡県の筑後川河口付近まで広がっています.それより東側では砂礫質の干潟だと言われています(長崎自然史仮想博物館では筑後川以西について現地確認を行なっています).佐賀県の鹿島市以南も砂礫質です.さらに,長崎県では泥干潟が全て失われ,締め切り以後も残っている干潟は砂礫質です(軟弱で泥質に見える部分も砂礫を多く含んでいる).
佐賀県に残っている泥干潟の「健康状態」もみる必要があります.
カニやゴカイなど動物が多数生息する豊かな干潟は,
(1)泥の色が灰褐色
(2)腐敗臭がない
(3)生物によってつくられた無数の穴があいている
などの特徴があります.
反対に環境が悪化した干潟は
(1)泥が黒色
(2)腐敗臭が立ちこめ,ときには泥の中からメタンガスの気泡が出てくる
(3)生物によってつくられた穴に乏しい
などの特徴があります.
干潟や水の健全さは酸素がじゅうぶんにあるかどうかで決まります.(1)(2)は酸素が泥の中に浸透している度合いを示します.(3)は生物の豊かさを示すと同時に,穴が多く開いていると酸素が泥の中まで深く入っていけることを表わしています(その証拠に泥の内部でも穴の周囲は褐色になっている).
長崎自然史仮想博物館が観察したところでは,干潟の標高が高い(干出して空気に触れる時間が長い),潮の出入りのある河川に近い(潮の流れが速く,物質の交換が活発)ほど,状態が良い傾向にあるようです.
少なくとも調査した範囲では,かつての諫早湾は,いま佐賀県にある,どの干潟よりも良好な状態にありました.これを失ったこととその後の有明海の異変が無関係だという,干拓推進者の論理はいつまで通用するでしょうか.
長崎県諫早市吉永開1997年1月10日撮影 有明海の泥干潟は極めて軟弱で人が歩くとずぶずぶとめり込んでしまいます.ときには腰や胸までめり込むので慣れない人は死亡事故を起こす場合があります. 写真は閉めきられる前の諫早湾の泥干潟です.多くの人が干潟見学に訪れた黒崎排水機場前から西に600mほど離れた地点です. 動物の巣穴が無数にあり,足跡の泥も黒くありません.深く掘ると灰色の部分と褐色の部分がまだら模様になっていました.もちろん腐敗臭はありませんでした.立ったままの枯れ草はシチメンソウです. 2000年夏の時点ではヨシに覆われているものの,カニが生息し,巣穴も多数ありました.掘ってみてもそれほど黒くなっていませんでした.また,シチメンソウやシオクグなどの塩生植物の群落も残っていました. |
長崎県吾妻町牛口1997年4月18日撮影(締め切り4日後) 諫早湾締め切り堤防の南端付近です.締め切り後は乾燥した雑草地(2000年春の時点では,アカザ科植物が多く,ハママツナも見られる)になっています.締め切り堤防の外はこのような砂礫干潟が延々と続いています. |
佐賀県鹿島市末増篭2000年7月15日撮影 塩田川の河口にあたります.比較的生物が豊富で,巣穴も多くあります.しかし,泥を掘るとやや黒い部分が目立ちます.腐敗臭はありません. |
佐賀県白石町只江川河口2000年8月3日撮影 河口といっても,潮が上らないようにしてあるため,実質的にはないのと同じです.国営有明干拓の前面になります. あたり一面に硫化水素の臭気(卵が腐った臭い)が立ちこめていました.写真の上半分にはメタンガスの気泡が見られます.表面以外は真っ黒なヘドロ状態です. |
佐賀県福富町住ノ江2000年7月15日撮影 六角川の河口です.生物の巣穴が多くあります.深く掘ると灰色になっています.貝が腐ったような臭気(アミン臭?)が漂うことがあります. |
佐賀県東与賀町大授1997年6月21日撮影 諫早湾締め切り後,しばしば「替わりの干潟」として取り上げられるところです.八田江の河口に近いところですが,この川では八田江防潮水門によって,夜間は潮の流れを遅くしてあります. 干潟の標高の割りには生物の巣穴が少なく,少し掘っただけでもかなり黒い泥が出てきます.ときに硫化水素の臭気が漂ってきます. |
佐賀県諸富町佐賀江川 蒲田津防潮水門付近2000年7月15日撮影 佐賀市の中心部から東に向かう佐賀江川という川は筑後川支流の城原川(満潮になると城原川まで潮が入る)に合流します.この合流点に蒲田津防潮水門があり,開閉調節によって佐賀江川に潮を入れたり止めたりしています.水門を開けると泥を含んだ海水が上ってくるため,佐賀江川には干潟が形成されています. 水門閉鎖中に干潟が露出して空気に触れているためでしょうか,深いところまで褐色を帯びています.また,ゴカイが掘ったと考えられる小さな巣穴がたくさん見られます. 佐賀では佐賀江川のほか,佐賀市から南に流れる八田江でも水門開閉で似たような環境が生じており,もちろん生物の巣穴がたくさん見られます. |
このページを含む<諫早湾と防災>閉鎖保存版は有明海漁民・市民ネットワーク事務局が著作者から全面的な管理を委ねられ、独自に複製・配布・公開しています。著作者は諫早湾の問題からは手を引いており、質問等は受け付けていません。
長崎自然史仮想博物館 制作・著作 布袋 厚 2001年