八田江防潮水門の運用

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佐賀県有明海沿岸の防災対策 見出し

 諫早湾の水門開放(海水導入)をめぐり,「海水を逆流させると水門が破壊される」,「防災効果が損なわれる」などと,さまざまな理由をつけて反対する人々がいます.しかし,佐賀県の八田江防潮水門では,水門を通して毎日,海水を逆流させています.諫早湾調整池に海水を導入する際の参考して,ここでは八田江防潮水門の具体的な運用方法を紹介します.

水門の概要

 八田江防潮水門は,一級河川嘉瀬川水系八田江(はったえ)にあります.八田江は佐賀市からの排水を受け持つ河川のひとつです(他に本庄江・新川・佐賀江川がある).水門の外は国土交通省の直轄海岸で,天端高7.5m(東京湾平均海面基準,以下T.P.と表記)の堤防が整備されています.

 水門は幅18.0mのメインゲート2門写真では左側と中央)と幅8.0mの閘門(こうもん,写真では右側.二重の水門を交互に開き,台風時に船を通して川に避難させる)1門からなり,いずれも敷高(水底標高)T.P.-2.1m,閉鎖時の天端高T.P.+6.1m(上流側閘門はT.P.+4.1m),門扉の高さ(上下幅)は8.2m(上流側閘門は6.2m)あります.

 水門は建設省直轄有明海高潮事業により1976年に完成し,佐賀県が管理しています(県職員1人が常駐し,水門と排水機場を運用).

水門の開閉方法

 八田江付近では水田面の地盤高がT.P.+1m程度あります.大潮満潮のときは潮位がT.P.+3m近くに達し,排水不良を起こすので,これを防ぐために毎日,水門を操作して,平常時の八田江の水位をT.P.+1.2m以下に調節しています.

 昼間は潮位を見ながら水門を全開し,夕方,職員の帰宅時に水門開度を20cmぐらいにして翌朝まで少しずつ水を出入りさせています(左下の写真は逆流のようす).このときの水の流れを潜り流出といい,右下図のように水門の後方で水が上下に回転しています.逆流時の水門内外の水位差は最大2mになり,そのときの水門直後下の流速は6m/sに達します(計算方法を参照).にもかかわらず,問題は起っていません.

 水門の振動音は聞こえず,ちょろちょろいう水の音が聞こえるだけです.振動がないということは逆流に適した水門形状が世の中に存在するということです.本気になりさえすれば,諫早湾でも水門の改造によって振動を防止することは可能だと考えられます.

海水を逆流させる理由

 海水を逆流させると泥が川をさかのぼって堆積し,河道を狭くします.また,堤防に取り付けられた樋門の前に泥がたまり,排水を妨げます.これらは諫早湾の水門開放に反対するための大きな根拠になっています.にもかかわらず,八田江ではわざわざ職員を常駐させて毎日,海水を逆流させており,堆積した泥は,佐賀県が重機を入れて取り除いています.

 こうした面倒なことを敢えて行なう理由として,水門を締め切ってしまうと外側の海底に泥が堆積して漁港の機能を妨げるので,それを防ぐために水を流しておくこと,川の中に住んでいる生物の生息環境をまもることが挙げられています.これらと排水を両立させる方法が,開閉調節というわけです.

高潮や洪水への対応

 満潮時の洪水の場合には水門を締め切り,そばにある八田江排水機場で排水を行ないます.

 排水機場には,1985年に設置された排水能力毎秒10トンのポンプが3台と1994年に増設された毎秒30トンのポンプ(右写真)1台があり,計60トンとなります.10トンポンプ3台の建設費用は建物などを含め約27億円(当時の価格),30トンポンプの建設費用は約32億円,1998年ごろの年間経費は全体を合わせて640万円です.一般に排水機場の建設費は排水能力毎秒1トンあたり約1億円です.年間維持費はおおよそ100万円から600万円と幅がありますが,排水能力にはあまり関係ありません.

  2001年春の時点までの実績では,1999年の集中豪雨の時に毎秒40トンの排水をおこなったのが最大の運転であり,能力いっぱいの運転を行なったことはないそうです.

 もちろん高潮(計画潮位T.P.+5.02m)のときも水門を締め切り,雨が降れば排水機場を運転することになります.


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長崎自然史仮想博物館 制作・著作 布袋 厚 2001年