<重要資料>

・長崎南部総合開発計画に係る環境影響評価書       

諫早湾干拓事業に係る環境影響評価委員会名簿


・「諫早湾漁場調査結果報告書」(ダウンロード約11mb)

・平成9年度諫早湾干拓事業環境モニタリング計画策定業務報告書(平成10年3月、九州農政局諫早湾干拓事務所・国際航業株式会社)資料編「12 濁り監視調査」(3mb)・・・これは閉め切り前の工事における濁りに関する右の漁民証言を裏付ける農水省内部資料であり、「スパイク状高濃度」の濁度が観測されている。工事を中断せずに強行した農水省は、湾内タイラギ壊滅に対する確信犯と言えよう。

・平成9年度諫早湾干拓事業環境モニタリング計画策定業務報告書(平成10年3月、九州農政局諫早湾干拓事務所・国際航業株式会社)資料編「13 潮流調査」(6mb)。

採砂工事による地形変化図

環境への影響

諫早湾の赤潮

 諫干事業の環境への影響について、「諫早湾干拓事業計画に係る環境影響評価書」(いわゆる環境アセス。第一次は藤川武信委員長86年7月、計画の「一部変更」による第二次アセスは志村博康委員長91年8月)では「影響は計画地の近傍に限られることから、本事業が諫早湾及びその周辺海域に及ぼす影響は許容しうるものであると考えられる」と結論づけ(総合評価部分)、事実上は潮受け堤防周辺(消滅補償は堤防前10mまで、影響補償は工事期間中)にしか影響はないとして影響を極力小さく見せかけようとした。このために諫干アセスが踏襲した南総アセス(左欄に本文へのリンクあり)では研究者の調査報告書を改竄までしている(改竄内容は山下弘文著『ムツゴロウ騒動記』参照)。
 ところが他方では、漁業補償を行って漁業者の反対の声を押さえ込みたいという政治的思惑もあったのであろうか、漁業補償額算定のために策定された「諫早湾干拓事業計画に伴う漁業影響調査報告書」(昭和61年3月、九州農政局諫早湾地域調査事務所。この文書も長らく秘匿されていたが、漁民ネット顧問の錦織淳弁護士が2001年に発見・公表させたもの。後日アップ予定)では、「直接的な影響は、ほぼ諫早湾内に止まるものと予測される。しかし、諫早湾々奥部の干潟が消滅することによる飼料生物や卵・稚仔補給源の減少など間接的な影響は、多少とも湾外に及ぶものと予測される。また、工事期間中は潮受堤防前面及び採砂地の工事区域の設定や、土運船の航行による漁業の操業制限、工事に伴う濁りの発生などが漁業に影響を及ぼすこととなる」(p.179)として、堤防近傍だけではなく、諫早湾内から湾外の有明海にも一定の影響が及ぶものと指摘されていた。
 農政局と県は、湾内漁業者に対しては「水揚げの減少は2割にとどまり、漁家経営は継続可能」と説明していたが、実際には湾内は壊滅的な打撃を受けて漁家経営は事実上不可能に近い。また環境アセスと漁業影響調査報告書では、その内容が大いに異なっているのであるが、しかし実際には下の有明海魚類漁獲量の激減ぶりをみても分かるように、定量的に「許容しうる」といったレベルを遙かに超えただけではなく、定性的にも両予測が無視していた項目で大きな異変をもたらしたのである。

1.争えない事実としての諫早干潟の破壊

 工事中から諫早干潟は劣化し始めていたが、97年の閉め切りによる干潟の最終的な破壊がもたらした直接的な影響には、次のようなものがある。

 1)水質浄化機能の消失。

 2)生物多様性の喪失 希少種・新種、未発見種の底生生物も多かったはずと言われている。

 3)シギ・チドリ類などの渡りの中継地点としての機能の喪失。これはオセアニアやアジアの環境にも影響する問題。

 4)魚介類の生息産卵場としての機能の破壊。→有明海の魚類生産量は88年をピークに着工と同時に図の通り減少傾向が続いているが、定量的にも予測を間違えたと言わねばならない。さらに以下の諸項目でも、環境アセス評価書や漁業影響調査報告書は、大きな見込み違いを犯している。


2.閉め切り工までの工事が及ぼした影響

 1)89年に始まった試験堤工事では、地盤強化のためにサンドコンパクションパイル(砂を詰めた直径1.6mのパイプ)が20〜30mの海底深く直接打ち込まれたため、海底から大量のヘドロが押し出されて湾内に湧出。タイラギ漁民の抗議を受けて、試験堤後の築堤ではまず2mまで床堀りし、その後に敷砂工を施してからのサンドコンパクションパイルの打設工法に変更された(91年の第二次アセスは、この工法の変更も一要因)。工期中に打ち込まれたサンドコンパクションパイルは総数5万本を超えるという想像を絶する数。なお近年頻繁に漁業被害をもたらしている有害プランクトンのシャットネラは、89年以前には有明海で確認されておらず、有明海で増殖するようになったのは、この工事で大昔のシストが掘り返されたのが原因ではないかと見る研究者もいる。本工事以前にも湾内・湾口では大量のボーリングが実施されたから、その際にシストが蘇った可能性もある。
 2)床堀りされた土砂は小江干拓地の埋め立てに配管輸送されて利用されたが、現場には矢板の囲いもなく、濁水が毎日湾内に流出し続けたという。
 3)大型資材運搬船の航行による底泥の巻き上げも激しかったそうで、小長井漁協が航行を実力で阻止する動きに出るほどだった(ただし小長井漁協は、タイラギ漁が不可能になって以降は諫干工事に従事して生活を支える必要から、事業推進派が執行部を形成してきた。しかしまた最近は、開門を求めて原告になる組合員も少なくないという複雑な事情を抱える)。91年からのタイラギ大量死の際は、成貝がみなヘドロをかぶって窒息死していたため、漁業者は大型船の航行が原因と考えている。諫干事務所は「台風のため」と説明したが、「台風なら毎年来ているが、こんな被害は今まで無かった」という漁民の反論に答えられず。
 4)91年から98年までの間、堤体材料とする海砂を諫早湾口部から掘削し続け、その間濁りが周辺海域に拡散。その採砂総量は257万トン(当初計画では内部堤防完成までの11年間に、300haを平均7m掘削し、採砂量700万トンとなる予定だったが、結局約三分の一で済ませ、内部堤防完成前に終了した理由は不明。過大な当初計画は利権がらみの転売目的かという噂もある)で、今も痕跡が生々しい(右の写真は魚群探知機でとらえた採砂跡。04年5月撮影。)が、その場所は絶好のタイラギ漁場の一つだったから、漁場の直接的破壊と言える。
 5)湾口部で採掘されたヘドロを含む砂は、次々に大型資材運搬船で潮受堤防築堤現場に運ばれ、下から順に積み上げられていったが、囲いもしていない築堤現場からはヘドロ分がひっきりなしに大量に湾内に流出したという。採砂量と比例したヘドロ分が湾内に供給され続けたことを意味する。
 6)91年12月1日付朝日新聞は、タイラギ大量死について、諫早湾内海底に堆積した20〜100センチのヘドロをかぶっての窒息死と報道している。ヘドロをかぶっての窒息死は、閉め切りまでの工事期間中、毎年続いたが、その元となったヘドロは、89年のサンドコンパクション1296本で押し出された築堤現場海底のヘドロ、及び全採砂量257万立米の幾割かを占めたはずのヘドロである。有機物の多いヘドロの堆積は、必然的に湾内での貧酸素をも引き起こし、タイラギ斃死の一因になったことも容易に推測できる。これら大量のヘドロはその後、エスチャリー循環流で有明海奥部に流出した可能性が高い。
 7)湾内タイラギの不漁原因を調査するために93年に設置された「諫早湾漁場調査委員会」は、なかなか調査結果を出さなかったが、原口一博議員の国会質問での追及で、ようやく2002年1月に「諫早湾漁場調査結果報告書」(ダウンロード約11メガバイト)を発表した。そこには、閉め切り前の94・95年に既に湾内の成層化を示すデータだけでなく、底層の低酸素化、それに底質の細粒化の進行を示すデータがあり、委員からはこれがタイラギ不漁に関係するのではないかと疑われたが、議事録によると農政局から@貧酸素データの出た地点とタイラギ斃死が最も多かった地点が一致していない、A細粒化と斃死とが直接結びつかない、などの意見が強硬に出され、結局報告書では「因果関係は不明」とされた。しかしタイラギ斃死が最も多かった地点(St.5)は、採砂地の南側に位置していることから、引き潮時に濁りや泥をかぶった可能性が高く(細粒化が5割も進行して全調査地点中最大)、斃死が次に多かった地点グループは貧酸素が観測された湾中央部で一致しており、報告書の結論付けには無理がある。
 8)採砂跡地は今でも大きな爪痕を残しているが、97年6月には人体が潜ってしまうほど深いヘドロに覆われ、貧酸素の発生も確認されている。
 9)着工前と閉め切り前を比較した潮流調査データ(農政局による15昼夜定点連続観測)があることは、研究者の間でもあまり知られていない。最後まで堤防南寄りの閉め切り工区1.2キロが開口されていたことを反映して、閉め切り前に速くなっていた地点(開口部側)や、既に潮流が大きく鈍化している地点が混在し、湾外にまで相当な攪乱を及ぼしていたことが明らか(調査地点図)。
   

 10)以上の結果、着工前後(着工前でも相当量のボーリングが打ち込まれたはずである)から諫早湾でも赤潮が発生するようになったが、97年の閉め切りは、それを激増させていくこととなる。(閉め切り前後の赤潮発生


3.閉め切りが及ぼした影響

 1)河川感潮域が消滅し、絶滅危惧種ヤマノカミなど汽水性生物の生息域が失われた。

 2)悪化傾向が止まらない調整池水質

 3)諫早湾生態系の破壊

 4)有明海異変

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