<重要資料>

・着工後の湾内及びその周辺の漁業被害を伝える報道抜粋

アサリ被害を伝える報道抜粋



・着工前の湾内底質(諫早湾干拓事業計画に伴う漁業影響調査報告書 pp.59-61)

・貝類漁場図(同上p.116

・環境影響評価に係るレビュー(2001年)に掲載された農水省モニタリングの底質データ(スミスマッキンタイア法なので信頼性は乏しい)。


漁業補償の根拠(一部黒塗りであるが、当局も湾内およびその周辺の漁業に影響の出ることを認めていたことを意味する))

  諫早湾

諫早湾岸養殖アサリの斃死
 
 諫早湾の環境変化に関して、国は湾内潮流の鈍化と潮受堤防前面付近の底質悪化を認めたのみで、着工以来自ら行っている月1回のモニタリングデータを根拠として「湾内のCODやTN・TP、底質や底生生物に閉め切り前後で変化はないのだから、ましてや有明海異変とは関係があるはずがない」という論法で、有明海はもとより諫早湾自体の生態系破壊の現実までをも否定している。
 しかしモニタリングの湾内水質調査は、最初から底層を対象としておらず、主な観測対象の表層でも、海面下50センチでの採水なので海水の上に乗る排水の影響はデータに出にくいし、しかも底質調査はコアサンプラーではなくスミスマッキンタイア採泥器を使用したうえで混ぜ合わせて粒度測定機にかけているので、年々の変化はデータに出にくい仕組みになっている。さらに底生生物も、実際には悪環境で増加する生物が増えただけであり、科学的な湿重量比較法での調査をサボタージュしている。
 こうした問題を抱えるモニタリングではあるが、それでもそのデータからからも、閉め切り以降の諫早湾の環境悪化の傾向は読み取ることが可能なのであって、農水省のような「諫早湾の水底質に変化はない」と結論づけるのは誤りである。


@湾内外潮流の激減(潮流調査地点図


  ASSの減少、透明度の上昇

潮流の減少や干潟からの浮泥供給の遮断のために、築堤中及び閉め切り後のSSは明らかに減少した。これは海域透明度の上昇をもたらし、水門からの有機汚濁物の排出や湾内潮流の鈍化(海域流動の減少)要因とも相まって赤潮を発生しやすくする。さらに栄養塩の調整機能(過剰なときは吸着し過小なときは放出する)を果たしていた浮泥の減少は、栄養塩の過剰や逆にその枯渇をもたらし、海域生態系を不安定化させるが、注目すべきは湾央のみならず有明海との接点を成す湾口部でもSSが減少していることである。

  B成層化
水門からの排水は、ゲートを引き上げる形で行われるので、有機汚濁水は排水後直ちに海面に浮上する。浮遊懸濁物(SS)の多くは湾央以内に沈降して海面に残るのは高COD淡水となるが、それでも微細SSはいつまでも沈降せず、汚濁水が海中の大河のような様相を呈して佐賀県西岸を北上する。また島原半島沿いの漁民も、その濁りによって「調整池の排水が流れてきた」と判断できるそうである。河口から感潮域の間で不断に海水と攪拌される一般の河川とは大いに異なり、諫早水門から排出された淡水はいつまでも海水と攪拌されないのが特徴である。このため冬季であっても排水後の湾内では弱いながらも成層が生じるほどであるが、農水省の観測体制では把握できていない(表層データでさえも海面から50センチでの採水なので)。農水省は、その淡水がどこに流れていくのかや、各所で精密な鉛直プロファイル調査を実施すべきではないのか。成層化は諫早湾内にとどまらず有明海の成層と関係している可能性も否定できないし、高COD水が海面を流れ行く中で日射などとの条件が合えば、いつでもどこでも赤潮の引き金になりうるのだから。

  C赤潮と貧酸素水塊発生の増加 
評価委報告書にあるとおり、1997年以降の赤潮増加率が、有明海の中でも諫早湾が最高となったのも当然と言える。しかも下のEDINの枯渇問題と絡んで、珪藻だけでなく渦鞭毛層赤潮が多いのが特徴である。ひとたび赤潮が発生すると、海が荒れて攪拌されない限り、プランクトンの自己増殖が収まらず、死滅したプランクトンは海底に沈降して泥化に拍車がかかる。水門からの排水中に含まれる有機物や、湾内赤潮によるプランクトンの遺骸はバクテリアによって分解されるが、その過程で大量の酸素が使われるために、閉め切り以降の諫早湾では毎年、夏季に貧酸素水塊が発生し、タイラギ稚貝や養殖アサリの斃死を招いている。こうしたメカニズムを裏付けるのが、次に示す底質の細粒化が進んでいるというデータである。

  D底質の細粒化・泥化


   Eノリ期の栄養塩の枯渇 「諫早湾内における低栄養塩化について」(拙稿04年7月)
赤潮は夏場にだけ発生するとは限らず、特に有明海では閉め切り以降、秋期や冬期のノリ漁期にも発生するようになって被害をもたらしている。4県水試などが平成14年度以降、ノリの養分となるDIN(無機態チッソ)とプランクトン沈澱量の一斉調査を行うようになったが、他海域と比較しての諫早湾内のプランクトン沈澱量の多さとDINの少なさは明らかである(エクセルデータのダウンロード)。湾内で発生した赤潮が有明海に移流・拡散し(1月初旬から佐賀県南西部でノリの色落ちが生じた平成20年度や、12月下旬からの佐賀にはじまり福岡・熊本へと被害を拡大させた平成21年度もその可能性がある)、あるいは湾内の低栄養塩水が周辺海域に流れ込むことで有明海のノリ養殖を不安定にさせている。特に諫早湾の対岸にあたる大牟田・荒尾方面、諫早湾の近傍である大浦・有明町周辺の被害が甚大である。

  Fタイラギ漁の休漁、毎年繰り返されるアサリ・カキ被害、壊滅状態の魚類漁獲
諫早湾内の漁業実態は悲惨である。湾内漁民の生活源だったタイラギ漁は、工事の濁り、底質悪化、そして閉め切り後も貧酸素水塊の発生のために、1993年以来休漁を余儀なくされている。振興基金の援助を得てやむなく始めたアサリやカキの養殖も、アサリは貧酸素で、カキは排水(淡水)の直撃で毎年被害を出している。
   
以上の結果として、湾内漁獲量は下のグラフのように下落が止まらない。国が約束した「2割減」といったレベルではないのである。しかし農水省は、今もってこの漁獲減の原因を諫干とは認めていない。ならば諫干以外に何が原因なのかを、科学的・合理的に説明すべきではないのか。


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