諫早湾の目次
流量計算結果 貯留関数法による洪水シミュレーション
ここに紹介する内容を理解しやすくするため,初めに貯留関数法の仕組みを説明するアニメーションをごらんください.数学が苦手な方は<重要!!>と表示しているところだけ見ていただけば結構です. |
降水量から河川の流量を計算する方法にはいろいろあります.そのなかで,もっとも広く使われている方法が貯留関数法です.この方法は河川の流域をタンクに見立てて,貯留量(記号Sで表わす)と,流出量(記号Oで表わす)の関係を
S=KOP
という数式で表わします.貯留量Sは降水(地中に浸透せず,地表に留まる分)によって増加し,洪水の流出Oによって減少するので
S=Σ(f r -O)
という関係式で表わせます.r は流入係数と呼ばれ,降水のうち浸透せずに地表に留まる割合を示します.また,Σは合計という意味です.
※本館展示資料では原則として,流出量の記号Oの代りに流量の記号Qを使用しています.
貯留関数法モデルは,KとPの値は流域ごとに決まっており,降水量には影響されないという仮定のうえに成り立ちます.K,Pの具体的な値を決めるには,流域の面積や河川の長さ,勾配などをもとに「理論的」に決める方法(諌早湾干拓事務所が行なったシミュレーションがその例)もありますが,何といっても,実際の観測データに基いて「実証的」に決めるのがいちばんです.
本館では1983年から1999年までの主要な大雨について,長崎県本明川の裏山・埋津の両観測所(建設省所管)の水位・流量記録と流域の降水量記録に基き,ひとつひとつの事例ごとに,解析を行ない,K,P,fの数値を算出しました.その結果,
重要!! 貯留量Sと流出量Oの関係は変化に富んでおり,ひとつの数式で表わすのは無理
であることが明らかになりました.同時に,
重要!! 変化のしかたに規則性があり,貯留関数モデルの改良が可能
であることも判りました.
重要!! 降水量が多くなれば,地面が水に飽和し,雨水が浸透しなくなるので,流入係数(地表に留まる比率)が大きくなるのは当然だと言えます.
なお,理論的に流入係数は1を超えません(降った雨が地中にまったく浸透しないとき,ちょうど1になります)が,グラフでは1を超えたところにいくつもの点があります.これはさまざまな誤差が原因で,とくに風の影響による雨量の目減りの影響が大きいのではないかと考えられます.
まず,下の図(S-O相関図)を見てください.横軸は流出量を示し,縦軸は貯留量を示します.目盛が10倍間隔になっています.このような目盛の打ち方をしたグラフを対数(たいすう)グラフといいます.対数グラフにすると,流出量と貯留量の関係 S=KOP を直線で表わせるので便利です.
グラフの中の直線の1本ずつが大雨の1回ずつに相当し,直線の位置が毎回異なっています.(1)Kが大きいと直線が上のほうに位置します.また,Pが大きいと直線の傾きが急になります.
重要!! 貯留関数法のモデルが厳密に成り立っているならば,流出量と貯留量は1本の直線だけで表わされ,ばらつくことはありません.
ここで,上の図を見ると(2)KとPが反比例するような関係で点が並んでおり,かつ,流入係数が小さいときはグラフの左下側に点がずれています.
重要!! 貯留関数法のモデルが厳密に成り立っているならば,KとPの値はどちらも一定なので,1個の点だけで表わされ,ばらつくことはありません.
(1)と(2)を総合すると,S-O相関図で,(A)上の方にある直線ほど傾きが緩やかになり,下のほうにある直線ほど傾きが急になる,したがって右のほうで線が狭い範囲に集まることを意味します.さらに(B)流入係数が小さいと,直線が下に位置することを示します.下の図には確かにこれらの特徴が現れています.
(A)は
重要!! 流出量が多い時の貯留量のばらつきは比較的小さく,流出量が少ないときの貯留量のばらつきは大きい(5-10倍の開きがある)
ことを示します.また(B)は
重要!! 流入係数が小さい(降水量が少なく,地面が乾いている)ときには,貯留量が少ない(考れば当然)
ということを示します.
これらを総合すると
重要!! 1回1回の雨ごとには貯留関数のモデルが成り立つものの,雨の程度により貯留タンクの性質が変化するので,いつでも適用できるモデル(関係式)は成り立たない.流入係数が小さい(地面が水に飽和していない)段階で,貯留量の割りに大きな流出,つまり,相対的に急激な出水が生じている
と考えることができます.
※貯留量の単位は変な感じがしますが,便利なのでこれを使っています.3600倍すると実際の貯留量を立方メートルで示す値になります.単位の取り方にはいろいろあるので,シミュレーションの資料を見るときはじゅうぶんに注意してください.
このページを含む<諫早湾と防災>閉鎖保存版は有明海漁民・市民ネットワーク事務局が著作者から全面的な管理を委ねられ、独自に複製・配布・公開しています。著作者は諫早湾の問題からは手を引いており、質問等は受け付けていません。
長崎自然史仮想博物館 (C)Copyright Atsushi HOTEI (2000)