1996年までの裏山流量の計算結果を新規公開いたしました.
1997年・1999年の裏山流量について,より精度の高い資料にもとずく計算結果に置き換えました.
洪水のシミュレーションを行なう場合には,雨量と洪水流量との関係を数式で決めておく必要があります.数式の決め方にはいろいろな方法がありますが,貯留関数法(詳しくはアニメーション付き説明流量の計算法を参照)が現実との適合性が良い,式が簡潔との理由でよく使用されます.
貯留関数法は流域全体を貯水タンクとみなして,そこに溜まる水量(貯留量)をS,洪水流量(流出量)をQで表わし,
S=KQP
の関係式を当てはめます.貯留量Sは降水量=流入(地中への浸透分を差し引く) と 洪水流量Q=流出 との差の累積です.ここでKとPの具体的な数値を決める場合,2通りの方法があります.
ひとつは地形データ(流域面積・勾配など)にもとづき,理論的に求める方法です(諫早湾干拓事務所によるシミュレーションがその例です).もうひとつは実際の雨量・流量の観測値をもとに,経験的に求める方法です.当然ながら前者よりも後者のほうが現実を反映しています.
長崎自然史仮想博物館では後者を採用し,過去10年以上にわたる洪水時の観測結果を収集して,ひとつひとつの洪水ごとに貯留関数法の関係式を決定しました.その式を用いて,雨量データをもとに洪水シミュレーションを行ない,実際の流量(水位から換算)と比較して,関係式の精度を検証しました.
流域の性質が貯水タンクの性質と異なる.
流域が複数の部分から成り立っており,各部分ごとに異なる貯水タンクの性質(関係式)をもっている.
同じ場所でも地表面,地表直下の空間,地中深いところで互いに水の挙動が異なる.
降水量によって浸透の割合が変化する.
これらは貯留関数法の適用そのものに限界があることを示しています.
雨量観測値に誤差がある.
雨量分布にムラがある.
流域内の平均雨量の計算方法(たとえばティーセン法)が現実を反映していない.
流量と水位の関係の表現方法(たとえば2次関数をあてはめること)が現実に合わない.
水位の自動観測値に誤差がある.
人手による流量実測のさいに行なわれる計算過程で使用される更正係数が現実に合わない.
河道の断面の測量結果が洪水最中の河道形状と異なる.
河道断面の形状が局所的に異なる,洪水中に変化する.
雨量や水位の小刻み・急激な変化を捉えきれない.
地形などから理論的にKとPを定める場合に,その適用が現実に合っていない.
これらは貯留関数法計算の前提となる基礎データの誤差を示します.
以上からわかるように,シミュレーションには多種多様の誤差が付きまとうので,どれだけ優秀な技術者がどんなに高性能のコンピューターを使うとしても厳密・正確な計算は不可能です.「○○省のシミュレーションは最新のコンピューターでやっているので間違いない」のような言い方はそれ自体がうそになります.あくまでも判断基準は現実にどれだけ合うかです.今回おこなった関係式の決定でもS=KQPのKとPはいずれも洪水ごとに大きく異なり,幅広い変化をしています.
参照 貯留関数法モデルの検証
1983-1990年 1991-1996年 1997年 1999年
1996年以前の埋津については,非洪水時の水位が満潮前後に潮汐の影響を受けていたため,その時間帯については水位から流量に換算できず,シミュレーション結果と比較できません.そこで,雨量から計算した流量を水位に換算して,実測水位と比較しています.この方法を使うと川の水位がどの程度まで潮汐の影響を受けているかを確かめることが可能となります.
このページを含む<諫早湾と防災>閉鎖保存版は有明海漁民・市民ネットワーク事務局が著作者から全面的な管理を委ねられ、独自に複製・配布・公開しています。著作者は諫早湾の問題からは手を引いており、質問等は受け付けていません。
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