諫早湾 水門の位置と構造

諫早湾の目次
流量と流速の考え方
流速・流量の数値

 有明海の異変をめぐる議論の中で,諫早湾干拓潮受堤防の水門を開放すると「速い潮流のために危険が生じる」とか,「漁場が荒れる」,「水門は海水を逆流させないという前提で設計されている」などという理由で,開放に反対する論理があります.

 これらの論理の妥当性を検証するには,水門の形状・構造を具体的に知る必要があります.そのうえで,水理計算をやり,初めて「開放が可能かどうか」の判断ができるようになります.

 ここではその第一歩として,水門の位置・形状・構造を紹介します.

水門の位置

 諫早湾干拓潮受堤防(締切堤防)の水門は図のように2箇所あり,北部排水門・南部排水門というのが正式の名前です.

 潮受堤防の長さは7050mあり,北部排水門は堤防北端から377.2m,南部排水門は堤防南端から837.9mの位置にあります.

 1997年4月に締め切られた通称「ギロチン」は水門ではなく,堤防工事途中の工作物です.両者をしっかりと区別してください.「ギロチン」が落とされた部分は現在,堤防となっています.

 潮受堤防は砂と石積みでできており,天端(てんば)の標高は+7.00m(東京湾平均海面を基準,以下同じ)です.

参照 諫早湾の位置図

水門の構造

北部排水門

 北部排水門は6連の水門の集まりで,それぞれ,幅が33.35m,高さが9mあります(正面図参照).ですから,6連を合わせた幅は200mとなります.水門を閉じたときは,下端の標高が-4.00m,天端の標高が +5.00mです(正面図の右4つ).水門を最大に引き上げたときは,下端の標高が +5.00m,天端の標高が+14.00mとなります(正面図の左端).水門を引き上げたときに水門の下にできる隙間の上下幅を開度といいます.正面図の青水平線(下向き三角形がついている)は調整池の平常時(専門用語では「常時」という.農水省が「水位を常時 -1.00mに保つ」という意味に注意)の水位です.図の中で + あるいは - の符号がついているものは標高を示し,符号のないものは長さを示します.

 水門の仕切りは長さ20m(図面により推定),厚み3.60mあり,6連全体の両端の側壁の長さは80m(写真により推定)あります(平面図参照).平面図でうす青色の横線は水門の位置を示します.
 左の写真は南側から水門の一部を写したところで,右が有明海になります.水門天端から上のコンクリート柱の長さは10.70mあります.らせん階段の大きさと比較してください.

 水門本体は厚み2.5mほどの鉛直板です.ワイヤーロープで吊るされ,これを巻き上げることで水門が真上に引き上げられる仕組みになっています.

 下の写真は潮受け堤防管理センターから北部排水門を見たところです.左が有明海,右が調整池です.

護床工

 右の図は水門の断面図です.

 水門付近は水流によって浸食されないように底が固められています.水流の向きは調整池から海への一方通行が想定されています.この場合,流速は海側が大きくなりますから,海側で護床工が15m長く,さらに海側に吸出し防止マットが15mの長さにわたり,敷設されています.それ以外底の構造は水門内外でほぼ対称になっています.

 この設計で想定されている流速は 7m/sec であり,これが生じる条件として,調整池水位 -1.0m,海の潮位 -2.9m ,水門開度 1.0mが想定されています.

 ですから,流速を最大に見積もるとして7m/secの流速で逆流させるとしても,上記の差の分だけ,護床工や吸出し防止マットを追加してやれば良わけですが,実際には流速を小さく押さえるように水門開度を調節することになります.

 左の写真は九州農政局諫早湾干拓事務所発行の広報紙に掲載されていた北部排水門海側の写真です.水門を設置する工事の間,まわりを仮締切りして,中の水を抜いているので,護床工がよく見えます.

 護床工はブロックを敷き詰めて底の浸食を防ぐとともに,底に凹凸をつけ,水流を減速させる仕組みになっています.


南部排水門

 南部排水門は2連の水門からなり,各水門の幅は25.00m,間の仕切の厚みは3.30mです.それ以外は北部排水門と同様です.


流量と流速の考え方
流速・流量の数値

 この資料の作成にあたっては,主として『諫早湾干拓 事業計画の概要』(九州農政局諫早湾干拓事務所,1994年)を参考にしました.


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長崎自然史
仮想博物館 制作・著作 布袋 厚 2001年