長崎自然史仮想博物館 QA

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 まことに申し訳ありませんが,館長多忙につき,ご質問の新規受付を停止いたします.

Q1 水路や排水機場の管理はどこの機関がやっているのですか?
Q2 不知火水位観測所で洪水と潮位がほとんど加算されないのは水理学からでも説明できることなのでしょうか.
Q3 1999年7月23日の洪水で不知火の実測水位が満潮水位よりはるかに高くなった理由は?
Q4 ホームページに書かれたブレッスの式で計算すると本にある数表の値と違う結果が出ます.
Q5 合理式(ラショラル式)についての質問
Q6 合理式の流出係数の出し方がわかりません.
Q7 河床勾配がゼロの河川の流下能力の算定はどうすればよいでしょう.
Q8 流出係数、粗度係数を逆解析で求めることはできないでしょうか.
Q9 諫早湾干拓の前身である南総(長崎南部総合開発計画)や,さらにその前身の長崎大干拓構想複式干拓だったのでしょうか.
Q10 当初は、どのような目的で干拓事業の計画が始まったのでしょうか.
Q11 水門を開けたときに、それまで中にためられていたヘドロや汚水が、 堤防外に流れ出してしまうのは大丈夫なのですか
Q12 干拓工事「推進派」は干拓工事の問題点には気づいているのでしょうか
Q13 諫早湾に佐賀県のような堤防や水門を作るとすれば,どのような場所につくれば良いと考えているのですか.
Q14 諫早湾干拓事業について初歩的な事かもしれませんが いくつか質問をするので、お答えいただけるとありがたいです。
Q15 時間的に変化している雨量の時、合理式を用いるには、その雨量は平均化するのでしょうか?
Q16 諫早湾干拓の目的には水源開発も入っているのでしょうか.
Q17 不等流計算について、純粋に水理学の観点からご質問させていただきます。
Q18 堤防道路のことをもっと詳しく知りたい

 質問をお寄せいただいた方のお名前(ペンネーム可)についてはご本人の了解をいただいた場合に限り公開しています.

第1分館諫早湾と防災関連

Q18 堤防道路のことをもっと詳しく知りたい

 はじめまして、私は諫早干拓事業を何とか見直しにしたいと行動しております小宮といいます。 分からないことがあるたびに、布袋さんのところで勉強させて頂いてます。 ありがとうございます。
 早速ですが、突然メールを送ったのは、堤防道路についてお尋ねしたかったからです。 毎日目まぐるしく諌干の状況は変わっているなか、最近は漁民達もおとなしくなり、マスコミの報道も少なく 「このまま、完成の方向なのか?」と、考えることも多くなっています。 それに加え、先日の報道で10月には堤防道路の着工にかかるということを知り、ショックであたふたしています。
 単刀直入に言いますと、堤防道路に反対行動を行いたいが、堤防道路のことをもっと詳しく知りたいのです。 軟弱地盤の事とか、高潮で壊れるかもとか、分かる範囲で構いません。 申し訳ございませんが、宜しくお願い致します。 お返事お待ちしております。
(2001年08月03日 長崎県 小宮さんより)

A  取りあえず,以下に長崎県の公式資料を示します.堤防の構造などに関するご回答を引き続き募集いたします.

諫早湾干拓堤防道路整備の概要について

平成13年9月10日
農村整備課

1.事業概要について
○目的

 島原半島一帯の農畜産物輸送の合理化、新たな観光ルートの開発、地域間交流の促進を目的に実施するものである。
○事業概要 事業費 25億円
事業量堤防道路L=7,050m
北部取付道路L=715m
南部取付道路L=447m
L=8,212m
全幅員8.0m+歩道2.0m=10.0m
道路幅員3.25m*2+路肩0.75m*2=8.0m
予定工期平成12年度〜平成15年度(4年間)
○事業費 平成12年度 2億円 測量設計等
平成13年度8億円堤防道路舗装改良、管理橋補強工事等

2.経過
○平成11年度

 地元2市20町から潮受堤防管理道路の一般交通の開放に向けての要望を受け、管理道路の構造等の検討を行った。

○平成12年度
事業実施に向け、測量設計を実施した。
3.今後のスケジュール
○平成13年度

 堤防道路舗装改良工事、管理橋補強工事の10月着工予定

○平成14年度

 南北取付道路の着工予定

この事業は長崎県の単独事業で,道路は県管理の農道となります.道路は国道並みの規格(車両規制なし)で,通行量予測は4200台/日です.

Q17 不等流計算について、純粋に水理学の観点からご質問させていただきます。

 ”本明川河口の不等流計算”は非常にわかりやすくまとめられていると思います。 小生、不等流計算については何度も行っているので知っているつもりでしたが、 ”河口”については初めてなので、新たな疑問がいくつかわき上がりました。 質問を以下に箇条書きにまとめました。 A

参照
不等流計算
本明川水位への潮位の影響 1983-1990
本明川水位への潮位の影響 1991-1996
本明川水系略図(観測所の位置)
大浦検潮所の位置

(1)河口水位を3.0m(計画高水位)、2.5m(大潮満潮位)、限界流水位の3通りで想定されていますが、”建設省河川砂防技術基準(案)同解説”によると、次のような解説があります。”河口部の計画高水位の決定にあたって最も重要なことは、不等流計算出発地点の水位を決定することであるが、一般には次のように行われることが多い。
 1. その地点のすぐ近くに観測点のある場合は(1)、(2)の大きい方の値に所要の損失水頭を考慮したものをとるか(3)をとる。 (1)朔望平均満潮位
(2)既往洪水(確率1/10以上の規模)のピーク時の潮位のうち最高の潮位
(3)既往洪水のピーク水位を確率処理して得られる潮位・・・・・・・以下略”
 そこでまず、3.0mとした根拠は何かあるでしょうか。また大潮満潮位というのは、正確には朔望平均満潮位のことでしょうか。あるいは略最高高潮位、大潮平均高潮位のいずれでしょうか。また、”建設省河川砂防技術基準(案)同解説”で言うところの、”所要の損失水頭”を考慮するとすれば、対象地河口ではいかほどになるでしょうか。
 本明川の計画高水位1957年の「諫早水害」規模(100年に1度の確率)の洪水を想定して設定されています.本明川縦断面図を見ると,河口の計画高水位が3.0mとなっていますので,これを採用いたしました.なぜ,3.0mという数値になったのかは国土交通省長崎工事事務所に聞かなければわかりませんが,コンサルタントに委託しており,河道において貯留関数法や不流計算を行なっているようです.

 大潮満潮位は朔望平均満潮位の意味で使っています(「朔望」は多少専門的な言い方になるので,わかりやすくするため「大潮」と表現しています).その数値には何種類かありますが,実際の潮位をみて,2.5mを使用しました.

 大浦(佐賀県と長崎県の県境付近)の潮位と河口から0km800付近にある不知火水位観測所の水位を比較すると,満潮時においてはほとんど水位差がないので,不知火水位観測所より下流の河道および海面においては損失水頭は実用上,無視できると思います.ただし,洪水の等流水深線(区間を短く区切って等流とみなした場合)が潮位を超えているときは,両者の差がほぼ損失水頭となります.

(2)”水の流れのエネルギー”の説明のところで、”水流の持つエネルギーは位置エネルギーと運動エネルギーの合計となります(他に圧力のエネルギーというものがありますが、不等流計算では考えなくても大丈夫です)。”と述べられておりますが、一般的にベルヌーイの定理において、圧力水頭は水深を表すので、不等流計算では当然のことながら、圧力を考慮すべきと思いますがいかがでしょうか。  ご指摘の通り,正しくは位置エネルギー・運動エネルギーのほか圧力のエネルギーを合わせたものが,水流の全エネルギーとなります.開水路(水面がある水路)の場合,水面では圧力は0なので,水面での全エネルギーは位置エネルギー・運動エネルギーの和に等しくなります.水面から離れて,水中に入っていくと,深さに比例して位置エネルギーが減少し,その減少分がそっくり圧力のエネルギーになります.つまり,水面から水底までどこをとっても全エネルギーは一定で,それは水面での運動エネルギーと位置エネルギーの和に等しくなります

 したがって,不等流計算の式には,目に見えない形で,圧力のエネルギーが含まれているわけです.「考えなくても大丈夫」というのは,その意味です.舌足らずのところがありましたので該当個所に補足をいたしました

 なお,管水路(暗渠が満杯になったときなど)の場合は圧力のエネルギーを具体的に計算する必要があります.

(3)上記と同じように、”水の流れのエネルギー”のところで、”エネルギーの基準面は任意の高さにとることができます。今回の計算では東京湾平均海面(つまり標高0.00m)にとりました。”と説明されています。そしてこの説明は正しいと思います。ただ一方で次のような疑問もわきました。つまり、位置エネルギーというのは高さがあって存在するものである。河川の流水が海面に達したところで、すでに河川の高さとしてのエネルギーはなくなってしまうのだから、河口において、位置エネルギーは存在しない。しかしながら、運動エネルギーと圧力エネルギーは存在する。したがって、基準面は河口における現況河床高にとるべきである。基準面は、ベルヌーイの定理においてどこにとっても成り立つので、上記の私の考えはどこか誤解があると思いますが、それがどこなのかご教授いただければと思います。あるいは、ベルヌーイの定理は、河口の一部については成り立たないとも考えていますがいかがでしょうか。  運動エネルギーや圧力のエネルギーは基準面の高さと無関係に絶対的な値が存在します.それに対し,位置エネルギーは絶対的な値が存在せず基準面の高さに依存します.これら3種類のエネルギーを合わせると全エネルギーに等しくなります.これをベルヌーイの定理といいます(全エネルギーも絶対的な値が存在せず,基準面に依存する).

 したがって,「運動エネルギーと圧力エネルギーは存在する。」ことは基準面とは別問題と考えています.もちろん,河口においてもベルヌーイの定理は成立します.そうでなければ,不等流計算の式

2地点間の全エネルギーの差=摩擦によるエネルギー損失

という式が使えません.

(4)”支配断面”の説明のところで、”潮位を下げて川の水位が下がり、どこかで水深が限界水深を下回ると、そこに射流が生じ、潮位低下とともに射流が下流に向かって延びていきます。”と述べられております。そしてこれも正しいと思います。この場合、計画流量ももちろん下げて計算されていると思いますがいかがでしょうか。それともう一つ、実際に不等流のソフトで計算を試みた経験から言えることは、常流と射流の区別要素として,水深や計画水量以外に、どうしても河床勾配があると思います。これを、ある書籍によると”限界勾配”と称していますが、これは正しいでしょうか。  流量はあくまでも任意です.さまざまな流量について,流量を固定して,潮位だけを変化させ,潮位変化の影響がどこまで,どのように及ぶかを知るのが,今回行なった不等流計算の目的です.

 同一の地点では,任意の流量に対して,限界水深はひとつだけ存在します.掲載している不等流計算はいろいろな流量を想定し,それぞれの流量ごとに,全エネルギー(比エネルギーといいます)が最小になる水位を計算しています.これを限界流の水位としました(ベスの定理によると,限界流のときに比エネルギーが最小となります).

 限界勾配は不等流計算ではなく等流計算の場合に使います.ただし不等流であっても短い区間に着目すれば,等流とみなしても,限界水深は同じ値が出ると思います.

(5)河口の不等流計算においては、ご存じの通り河川断面を入力していきます。その場合、河床あるいは海底を浚渫した場合はそれなりに河川断面を入力しますが、計算ソフト上計算不能となる場合がかなりあります。この原因としては上記(4)に関連する理由がある、と思いますがこの点についてもご教授いただければと思います。

以上、不躾な質問で恐縮ではございますが、ご教授いただければ幸いに存じます。(2001年07月29日 東京都 H.Kさんより)

 流量に対して水位が十分高いときには常流になりますが,干潮などにより水位が低下してくるとが射流が生じるので,不等流計算では支配断面(限界流となる断面)がどこに生じるか(複数生じることもある)を見定めるために,最初に,河口から上流までの限界水深線を求める作業が必要となります.そののちに,支配断面を出発点に上流と下流に向かって逐次計算を進めることになります.これが自動的にできるかどうかはソフトの性能次第だと思います.参考までに私が計算したさいには Microsoft Excel に数式を書きこみ,半分手作業・半分自動計算で進めました.

 また,河口付近では少しの距離でも(とくに干潮のとき)水面勾配や水位の変化が大きく,途中の摩擦損失を正確に計算するのが難しくなります.それで誤差が大きくなり,不自然な結果が出やすくなります.

Q16 諫早湾干拓の目的には水源開発も入っているのでしょうか.

 諫早湾干拓事業の前身である南総では主目的に土地と水資源の確保をおいていたようですが、水資源の確保というのは諫早湾の場合にも目的にしてあるのですか?(2001年07月17日 清水さんより)

A  諫早湾干拓の「目的」には「水資源の確保」は入っていません.しかし,農地造成に付随して新たに必要となる農業用水を確保するために「調整池」を「淡水化」しています.また,調整池に面した森山町(慢性的な農業用水不足がある)を中心に,調整池の水を在来干拓地の農業用水として利用したいという強い願望もあります.

 諫早湾干拓の前身である「南総」には長崎市などに供給する「都市用水」=上水道用水や諫早湾岸以外を含む広域の農業用水の水源を開発するという目的が掲げられていました.

Q15 時間的に変化している雨量の時、合理式を用いるには、その雨量は平均化するのでしょうか?

  合理式についてなんですが合理式の説明の下に貯留関数法の説明がありその例題がありますがこのように時間的に変化している雨量の時、合理式を用いるには、その雨量は平均化するのか?また、別々に計算していくのでしょうか?水文学をまなんでいる学生です。よろしくお願いします。 (2001年06月25日 東京在住 23歳学生さんより)

A  合理式ピーク降水強度(単位時間当たりの降水量の最大値)からピーク流出量を求める式です.そのとき,どれだけの時間(たとえば10分間か,1時間か)の降水量を用いるかは流域面積や地形によって異なります.流域面積が小さく,急峻な地形であるほど,降水量の小刻みな変化が流出量に反映されやすいので,短い時間の降水量を用いる必要があります.
時間経過(分)102030405060708090100110120130最大値1時間当たりに換算した最大値
(これを合理式の計算に用いる)
10分間降水量2101512593000000 15 90
1時間降水量212273944535444291712305454

 10分間降水量と1時間降水量の関係は表のようになります.ある意味で1時間降水量は連続した6個の10分間降水量の平均を表わしていると言えます.

 合理式はあくまでもピーク流量を求めるための式なので,降水量が時間的に変化する場合,その最大値を使うようにすべきで,ピーク後の降水量を使って,減水中の流出量を求めることはできません.また同じ場所であっても,降水量(単位時間当たり)が多くなったり,降水時間が長くなったりすると,流出係数が大きくなりますから注意が必要です.これらの欠点を補うために考え出されたのが貯留関数法単位図法などの方法です.

Q14 諫早湾干拓事業について初歩的な事かもしれませんが いくつか質問をするので、お答えいただけるとありがたいです。

 館長注 05月19日の掲載後,ご本人の希望により,質問文を一部変更いたしました(2001年05月20日).
 諫早湾干拓事業について初歩的な事かもしれませんが いくつか質問をするので、お答えいただけるとありがたいです。 A
・始めに水門を閉じた理由は農業を開拓するためだと 聞きました。どうして諫早湾を締め切って、環境を崩してまで 農業を開拓したいと思っていたのでしょうか? どうして諫早湾という場所が選ばれたのですか?  最初の計画ができた当初は戦後の食糧不足という背景があり,また,その時代には「環境保全」という考え方自体がほとんど存在していませんでした.

 諫早湾が選ばれた理由は,水深が浅く,肥沃な干潟があり,湾口を締め切れば,広大な農地ができるからです.

 このように,初めはそれなりの合理的な根拠があったと言えます.時代が変わり,目的が失われたにもかかわらず,名目を次々に変えて,ひたすら「干拓する」ことに執着したので問題が深刻になったのです.干拓事業の歴史的背景についてはQ10の回答をごらんください.

・実はムツゴロウは最近増えていると聞いたのですが本当ですか?  山下弘文氏は「ムツゴロウの漁獲が増えているのは,県外から諫早湾に漁に来ているからだ」と言っていました.本当のところはこちらではわかりません.佐賀県の有明海漁連などにお尋ねになると良いでしょう.
・諫早湾についていろいろHPを見ているのですが、 やはり反対する人が多いみたいです。反対する人の中には 自然環境を考えた住民たちや、海苔事業の人たちだと思います。 この事業に賛成・開門することに反対している人はどのような人たち ですか? Q12の回答をごらんください.
・本来なら、農業開拓を目的として作られたそうですが、 なぜ防災目的に変わったのですか?防災効果はあるのでしょうか? 「防災」事業ならば,賛同を得やすくなります.反対=人命軽視というレッテルを貼ることで,批判を封じ込めることができます(干拓事業を佐賀・福岡・熊本の漁連に認めさせる切り札にも使われました).また意を決して批判するにも,「防災問題は専門的で難しい」という印象が強く,やり方がわからなくなります.

 防災の内容は3つに分けて考える必要があります.(1)高潮防止効果はあります.(2)1957年諫早水害で多数の人が死亡した本明川の洪水を防止あるいは軽減する効果はまったくありません.(3)低地の浸水防止あるいは軽減効果は状況と場所によりさまざまで,効果があったり,なかったり,逆に浸水を助長したりします.

 (2)については,なぜ,そうなるか,このホームページにたくさん資料がありますので,ごらんください.(3)については現在,資料公開をはじめたところです.

・防災についてはこれからお金をかけて強化するみたいですが、 予算はどのくらいかかるのですか? 取り壊すのにどのくらい費用はかかるのですか? 数字的なことが書いてあるHPなど知っていたら教えて下さい。  金額についてはこちらではわかりません.

諌早湾干拓事業公式資料ページに詳しい資料がいろいろ収録されているので参考になると思います.また,それを開設されている方に質問されると良いでしょう.

早めにお答えを頂戴できると 大変ありがたいです。よろしくお願い致します。 HPに書いてあることを質問しているところがあったら ごめんなさい。。
(2001年05月19日 東京都 よっしーさんより)
 

Q13 諫早湾に佐賀県のような堤防や水門を作るとすれば,どのような場所につくれば良いと考えているのですか.

 佐賀県には高潮に備えた堤防や防潮水門があるのですが,諫早湾の場合,どこに,どのような形でつくるとよいのでしょうか.考えをお持ちでしたら教えてください. (2001年03月31日 長崎市内で開催されたシンポジウムでの質問

A  基本的には海岸線に沿って,現堤防の海側に高潮堤防を建設(河川堤防では陸側に拡幅または新設)することになります.図の赤線が想定される堤防線です.

 図で一部,赤線が切れているところ(大島)では地盤が高く,そこでは堤防がなくても高潮を防ぐことができます.

 有明川では河口の両岸を結ぶ線に新たな堤防を築くことにより,高潮堤防区間を5km短縮できます.河口に本格的な防潮水門を設置し,大雨時や台風時に締め切って,大型排水機場による排水を行ないます(支流千鳥川の水は,合流点から河口まで背割りを設け,高潮時以外は海に直接放流する).また,二反田川の河口水門およびその約1km上流の三ツ橋(国道のところ)の水門,さらに二反田川河口の排水機場を抜本改修・大型化する必要があります.佐賀県八田江の例に照らすと,三ツ橋より下流を感潮河川とするほうが,かえって堆積泥の管理が容易であると考えられます.ここで提言する有明川と二反田川の管理法は佐賀県の本庄江や八田江のそれと同じです.

 本明川では建設省が半造川合流点から河口までを高潮堤防として整備する河川計画を立てていました.諫早湾に直接流入する小河川の高潮堤防は,いずれも河口付近の短い区間に限られます.

 なお,本明川と二反田川の間にある小野島-森山海岸の堤防(地図で黄色の線)は,長崎県が諫早湾の干拓を進める口実とする目的で故意に数10年間放置したため,損傷が激しくなっています.調整池に海水を導入するさいには,地元住民の不安を解消するために,緊急防災工事が必要です.これは,干拓工事の中断で収入源がなくなっている人々の雇用確保としても最適です.

 堤防の改修は小野島-森山海岸の緊急防災工事と,将来の諫早湾締切堤防撤去時に必要となる高潮堤防の整備とに分けて考える必要があります.

 小野島-森山海岸の緊急防災工事は,在来堤防の外側に盛り土をして,堤防の亀裂部分の漏水を防ぎ,さらに重しとなって堤防を安定化させるものです.現在は調整池内なので,高潮や高波の恐れはなく,土堤で十分です(諫早湾干拓の内部堤防も干陸地上では土堤です).盛り土の高さは最大限にみても在来堤防の天端と同じ高さでじゅうぶんです.幅については,在来堤防の幅より広い25m(平坦面幅は20m)としています.

 締切堤防撤去を見とおした将来計画による佐賀県並みの新堤防は在来堤防の外側に建設します.このほうが地盤改良工事に好都合ですし,用地買収も少なくて済みます.佐賀県では古い堤防に新しい堤防をかぶせながら,幅も広げています.断面図は佐賀県東与賀町大授海岸の堤防をモデルにしています.ここは佐賀県内でもとくに軟弱地盤なので,耐震性を高めるために押さえ盛り土が施されています.佐賀県の国土交通省所管堤防は,最上部1.5mが傾斜パラペットになっており,道路面高は6.0m(東京湾平均海面基準)です.

 諫早湾でも湾口寄りの場所では地盤が比較的しっかりしているので,図示した例の半分の幅で済むと考えられます.

参照 佐賀県の堤防 東与賀町大授の堤防

Q12 干拓工事「推進派」は干拓工事の問題点には気づいているのでしょうか。

 先日、干拓工事「推進派」のデモンストレーションがありましたが、彼らは布袋さんの指摘する干拓工事の問題点には気づいているのでしょうか。
 このホームページを見ていると、推進派の人々がなぜ存在するのか、とさえ思ってしまいます。
(2001年03月16日 埼玉県 桑 雅人さんより)

A  一口に「推進派」といっても千差万別で,おおまかには次のように分けられます.

(1)農水省や長崎県などによる長年の虚偽宣伝を信じてきたが,異なる考え方を聞く機会があれば,真実に気がつく人.
 諫早市街地の住民や低地農家にそのような人がいます.

(2)農水省や長崎県などによる長年の虚偽宣伝を心の底から信じきっており,異なる考え方に耳を傾けることができない人.
 住民の肩書きで,推進運動の先頭に立っている人の一部がこの例です.

(3)干拓事業に疑問を持ちながら,表向き推進の立場を取らざるを得ない人.
 一般住民や低地農家,漁協関係者にはもちろんのこと,自由にものを言えるはずの議員にもそのような人がいます.

(4)干拓工事がなくなると失業すると思っている
 小長井の漁民が典型的な例です.

(5)農水省や長崎県などの宣伝を虚偽だと知りながら,自己の利益のために周囲を動かしている人.
 長崎県知事・諫早市長をはじめとする少なくない政治家がこれに該当します.

 これらはいずれも,干拓推進により,何らかの利益を受けるのが共通点です(正当な利益も不当な利益もある).

 (1)と(2)については,農水省や長崎県が干拓推進の目的のために,地域防災を故意に怠って,諫早湾周囲を危険にさらし,干拓以外の選択肢を奪っている状況下で,住民が切実に防災を願望していることの現れです.それ自体は当然の理であり,責められるいわれはありません.しかし,干拓以外の代替手段に関して,冷静な対話がなされないのが問題です.

 こうなった原因のひとつとしてマスコミの報道姿勢もあります.干拓推進の最大の理由となっている「防災」は物理の法則に照らせば,何が正しいか簡単にわかるのですが,大半のマスコミは,もっぱら「ムツゴロウか防災か」,「ノリ漁民か諫早湾岸住民か」といった二者択一論で面白おかしく対立をあおり,国や県の説明を無批判に垂れ流し,賛否両論を表面的に羅列するばかりで,本質的な問題への言及をタブーとしてきました.

 (3)は村八分に代表される差別を恐れているのが理由です.漁民で補償金をもらったので反対できないという人もいます.政治家(共産党を除く)といえども例外ではなく,支持基盤を推進側に握られ,干拓に反対すれば政治生命を絶たれる(と思っている)人も現実にいるのです.

 (4)の漁民はもともと干拓反対でしたが,反対した当時は長崎県以外で目だった被害がなく,県外漁民の支援がなかった(人は自分のところに火がついて初めて立ち上がる)ので孤立して,反対運動を断念し,生計を維持するため干拓工事に従事しています.ですから,工事がなくなると途端に生活できなくなるというわけで,いちばん悲惨な被害者です.しかし,干拓工事が中止となっても,本来必要な防災工事は山ほどあるので,失業は回避可能です.

 (1)から(4)までは悪意がないのに対し,(5)は悪意で動いているので区別して考える必要があります.干拓工事で大金がゼネコンや建設会社に落ちます.これらの業界から政治献金が政治家に渡り,選挙の時には業界を挙げた支援があります.もし,政治家が彼らの期待を裏切り,干拓中止などと言えば,次の選挙を戦えない(と思っている)わけです.

Q11 水門を開けたときに、それまで中にためられていたヘドロや汚水が、 堤防外に流れ出してしまうのは大丈夫なのですか?

 水質や水に関することを個人的に勉強していて、 現在の閉めきられた諫早湾内の状況はよくはしらないのですが、 水門を開けたときに、それまで中にためられていたヘドロや汚水が、 堤防外に流れ出してしまうのは大丈夫なのですか? それが、今以上に深刻な影響を漁業に与えることはないのですか? よろしければ、答えを教えてください。(2001年03月08日 島根県  江原 亮さんより)

A  水門を開けたときは,汚水が流出します.しかし,「水門開放」をしなくても,締切り以来,汚水の流出は調整池の水を排水するたびに毎回起っていることで,とくに大雨のときは数千万トン単位で大量流出しています.したがって,海水を入れることで,汚水流出が急に始まるわけではありません.

 ヘドロの流出は水門の開け方によって,起ったり起らなかったりすると思います.したがって,調整池の水位と海の潮位との差が小さい時間帯(1日4回ある)に開けるとか,排水の時に水門を狭めて流速を落とすなどの工夫が必要です.最初はとくにゆっくりとした流れで水の出し入れを始め,状況を監視しながら徐々に量を増やしていくようにする必要があります.

 水門を開けるタイミングですが,まとまった雨の後はいやでも大量に排水し,そのあとには汚染の少ない雨水が調整池を占めるので,水位が-1.0m(調整池の管理水位)まで下がっても,そのまま排水を続け,大潮干潮位(-2.5m)まで水位を下げたあと,海水を少しずつ入れて,数日がかりで-1.0mまで戻すと問題を最小限に食い止めることができると思います.その後は調整池の水位を数日周期で-1.0m〜-2.5mの範囲で変動させると良いと考えています.もっと短い周期でも可能かもしれません.

 この範囲ですと調整池の水位を現在よりも高めないので,「防災」上の問題を回避できます.また,同じ水位変動幅でも,-1.0〜-2.5mで変化させるほうが,たとえば0.0〜-1.5mで変化させるよりも,出し入れする水量が少ないので,流速を小さく押さえることが可能です.なぜなら,(体積)=(面積)×(高さ)で,前者のほうが水面の面積が小さいので体積も小さいわけです.干出と水没を繰り返す干潟の面積はどちらもそれほど違いませんし,調整池で浄化がいちばん必要なところは,現在,よどんだ調整池の水面下にあって,無酸素状態の部分です.そういう意味から,この方法は理にかなっていると思います.

 ただし,いつも水位が-1.0mより低いと調整池周辺の地下水位が下がり,地盤沈下や井戸枯れの原因になるので,高気圧の圏内にあって雨の心配がないとき,一時的に水位を-1.0mより少し高めて,干潟面を潤しておく必要があるでしょう.

 このような方法で海水の出し入れを続けていけば,ヘドロに酸素が供給され,少しずつ健全な泥に変化していくので,早晩,状況が好転するでしょう.そうなれば,海水の出し入れの量をさらに増加できます.

 それでも,何も悪影響がないとは断言できないので,悪影響に対しては国家と長崎県が根本的な加害者として責任を取り,被害者に賠償すべきです.なぜなら,干拓事業をやっていなければ,「水門を開けたときの被害」など,初めからあり得ないからです.

Q1〜Q10を見る

このページを含む<諫早湾と防災>閉鎖保存版は有明海漁民・市民ネットワーク事務局が著作者から全面的な管理を委ねられ、複製・配布・公開しています。著作者は諫早湾の問題からは手を引いており、質問等は受け付けていません。
http://www.fsinet.or.jp/~hoteia 制作・著作 布袋 厚 2001年