諫早湾の防災問題で忘れてならないのが低地の浸水です.これは本明川の洪水とはまったく異質な問題です.農水省や長崎県などが「防災効果があった」というのは低地の浸水に関しての話です.諫早・森山の農家は低地の浸水で長年悩まされており,それが理由で諫早湾干拓に強い期待を抱き,賛成しています.農家の言うことにも一理あります.
この問題の解決には浸水の現状分析,締め切り前後の詳細な比較,気象データとの関連の分析,水理学的な計算など,本明川の洪水問題以上に慎重な検証が必要です.
そのような過程をへて,本当に諫早湾干拓が必要なのかどうかの検証ができるわけです.防災効果の有無と干拓事業の必要性とはあくまでも別問題です.マスコミや行政機関・政治家・NGOなどはしばしば両者を混同しています.これでは正しい解決ができないばかりか,見直し論に対する農家の反感をあおり,火に油を注ぐようなものです.
低地でなぜ浸水が起こりやすいか,原因を図解で説明します.
諫早湾のまわりには古くから干拓地が作られてきました.ここが大雨のたびに浸水を繰り返している場所です.干拓地はなぜ低地なのか.その原因は「干拓とは何か」を知ると一目瞭然です.アニメーションで干拓地の作り方を紹介します.さらに諫早湾干拓の特徴も示します.
1997年6-8月に諫早市が調査した湛水の分布(「低地の浸水」を湛水と同じ意味で使います)を使用して湛水の要因を分析します.
諫早湾周辺低地の浸水は海岸樋門での排水不良だけでなく,途中の水路の断面・勾配不足にも原因があります.現地で水路を追跡し,水の流れを確認して,水路系統図を作成しました.浸水分布図と比較検討すると,どこに問題があるのか明らかになります.
低地の浸水を抜本的に解決するにはポンプによる強制排水しかありません.諫早湾周辺に設置されているポンプについて地図と一覧表を掲載しています.
諫早湾干拓を推進する農水省などは,「諫早湾を締め切ったことで,満潮時でも低地の排水が可能になり,防災効果を発揮している」と宣伝しています.その証拠として「低地の排水ポンプの運転時間が短くなった」ことをあげています.
これが正しいかどうか検証するために,諫早湾締切(潮止め)前後の降水量記録と排水機場の運転記録をもとに,流域別の降水量と排水量を比較し,潮止めでどれほど変化しているかを判断するための材料を提供します.
諫早湾の水門開放をめぐり,干拓推進論者は「水門を開放すると背後地(周辺低地)の人命・財産が脅かされる」,「海水を入れて調整池の水位が高くなっていると大雨の時に間に合わない」と宣伝し,水門開放に反対しています.
この宣伝が正しいかどうかを検証する手始めに,今回は調整池の水位が,降水による流れこみや干潮時の排水により,どのように変化しているかを実測データをもとにグラフにまとめ,そこから読み取れるものを紹介します.
諫早湾干拓事業の推進運動の有力な担い手である諫早湾岸低平地の農家は,「水門開放(海水導入のこと)すると防災機能が損なわれ背後地(湾岸低平地のこと)が崩壊する」と意味不明の理由をあげて,「水門開放絶対反対」を主張しています.また,同時に「干拓工事再開,早期完成」を主張しています.
海水導入による降水時の排水不良は,降水に備えて調整池水位を下げるなどの方法で回避が可能なのに対し,干拓事業による調整池水位上昇幅増大(→排水不良)は逃れるすべがなく,降水のたびに必ず起こります.低平地農家が,海水導入による水位上昇は「崩壊」などと言って絶対反対しながら,「早期完成」による調整池水位上昇を容認する(結果的に望んでいる)のは彼らが干拓事業推進のための方便として「防災」を叫んでいるに過ぎないことを示唆します.
ここでは,調整池の水位上昇がどのくらい増大するか,具体的な数量で見ていくことにします.
このページを含む<諫早湾と防災>閉鎖保存版は有明海漁民・市民ネットワーク事務局が著作者から全面的な管理を委ねられ、独自に複製・配布・公開しています。著作者は諫早湾の問題からは手を引いており、質問等は受け付けていません。
http://www.fsinet.or.jp/~hoteia 制作・著作 布袋 厚 1999-2001年