2001年1月,ノリの不作をきっかけに,諫早湾干拓を中止すべきとの声が大きく湧き上がりました.これに危機感を覚えた長崎県は金にモノを言わせて全国紙や地方紙に全面広告を出し,干拓事業の正当性を主張しました.その後,長崎県のホームページにもまったく同じ内容が掲載されました.
広告には長崎県がいちばん言いたいことが凝集されています.逆にいえば,これに書いてある内容が崩れれば,長崎県は説得力を大幅に失います.
そのようなわけで,かなりの時期外れになりましたが,広告を検証します.文字の色はわかりやすくするために,長崎自然史仮想博物館がつけました.広告と検証文の同じ色の部分を見比べてください.
正体をあらわした干拓推進運動農水大臣が諫早湾干拓の縮小(農地造成の縮小)をほのめかすと,長崎県・諫早市・各種の推進協議会などは結束して「計画どおりの事業推進」=農地造成の縮小に反対を叫んでいます. すでに潮受け堤防は完成しており,現段階で干拓事業=農地造成(不動産開発)を中止しても防災機能には何ら支障はありません.それどころか,農地になる部分が調整池として機能し,防災効果が高まるので,ほんとうに防災を優先するなら大歓迎すべきことです. にもかかわらず,長崎県知事などは事業中止=農地造成の中止で「防災機能が失われ,人命に関る」などと脅しをかけて,「工事再開」「計画どおりの事業完成」を迫っています. ここにいたって,本当の目的は工事に絡む利権であり,「防災」は方便に過ぎないという,推進運動をすすめる人々の正体が鮮明になってきました. 小長井町の漁民をはじめ,やむなく干拓工事に従事している人々については,本来行なうべき佐賀県方式の防災事業により,雇用が確保できます.なかでも,老朽化した樋門の改修やクリーク,排水機場の全面的な整備は,たとえ干拓事業を進めるとしても無条件,緊急に必要であり,直ちに開始すべきです. ※長崎県は雇用対策のため,「潮受け堤防にハーブを植栽する」などと,どうでもよいことに金をつぎ込む方針です.長崎県はどこまで醜悪になるのでしょうか. | |||||||
もっと知ってもらいたい諫早湾干拓事業。長崎県は「有明海の再生」と「地域住民の生命・暮らしを守る」両立の道をめざします。 | |||||||
[1]どうして諫早湾干拓事業は必要なのでしようか。■たぴ重なる水害・高潮災害の歴史諫早湾地域の背後地域は土地が低く、台風や集中豪雨に見舞われることが多く、そのたぴにこの地方は死傷者、家屋倒壊、堤防決壊、田畑流出などの大きな被害を受けてきました。
■干潟の拡大が諫早の水害や排水不良の原因ですそれは有明海独特の潮の大きな満ち引きの差によるガタの堆積です。諫早湾は潮の干満の差が大きく、年に5cmを超えるガタ土が堆積して広大な干潟ができています。干潟は、長い間に背後地の土地より高くなり背後地の排水ができなくなります。そのため排水を良くし、新たな農地を造るため、数百年前から約3,500haの干拓が行われてきました。この地域では「50年1干拓といわれ、「干拓をすればその常にガタが堆積する。そして排水が悪くなる。そしてまた干拓を行う。」という、避けて通れない地域の宿命となっています。
■佳良の安全で安心な暮らしを守るためにこのような事情から、昭和20年代後半の長崎大干拓から南部総合開発計画を経て、昭和57年に締切面積を当初の3分の1の3,550haに縮小し、昭和61年に諫早湾干拓事業として着手されました。諫早湾の干拓は、この間、約50年の歳月が流れていますが、背後地における防災工事などは十分には実施されておりません。干拓事業は平成18年度完了予定で、すでに約85%の進み具合となっております。
諫早湾干拓事業は、潮受堤防(高さ7.0m)で諫早湾を締切り、内部に調整池を設けて、満潮時には海面の水位より低くなる背後地を高潮や洪水などの災害から守ります。干拓予定地の堤防の完成により、背後地の堤防の役割を果たします。 |
干拓事業の急所諫早湾干拓事業を推進するさいに,終始使われてきたのが「防災」という殺し文句です.「人命」を振りかざせば,余程の裏付けがない限り「反対」の旗を降ろさざるを得ません.数々の問題点が明らかになった現在,唯一のよりどころは「防災」です.ですから,この防災問題で,農水省や長崎県の論理を正面から覆せば,干拓事業は総崩れになります. 問題解決を真に阻んでいるのは,反対運動関係者やマスコミに広く蔓延している,「防災問題は難しくてわからない」という逃げ腰の姿勢です. 水害と干潟は無関係1957年の諫早水害で多数の死者が出たのは,本明川の氾濫(河道の断面不足および橋梁と流木によるせきあげ)や山間部,山麓の土石流や山崩れが原因です.洪水の水位が潮位の影響を受ける範囲は本明川の河口から2km(半造川合流点付近)までで,それより上流(死者が出た地域)では洪水の水位と潮の干満とはまったく関係ありません.潮の干満や干潟の影響を受ける諫早市小野島や北高来郡森山町の低平地(干拓推進運動の拠点になっている)では1人の死者も出ていません. 悪循環を断ち切った佐賀県「干拓をすればその常にガタが堆積する。そして排水が悪くなる。そしてまた干拓を行う。」悪循環を繰り返していくと,干拓地の前進に伴って地盤高がしだいに低くなり,最終的には小潮干潮位(諫早湾では-1m)に達して排水不能に陥ります(そのため,小潮干潮位を「干拓限界」とも言います).諫早湾と同じ問題をかかえる佐賀県では1998年までに全ての干拓計画を中止し,クリークや排水機場の整備で排水対策を進める方針に転換し,悪循環を断ち切り,地域の宿命を避けました.こうすれば,干潟の前進速度は最小限に抑えられます. 悪循環を一気に進める長崎県一方,長崎県では海岸から5kmも沖に潮受け堤防をつくったので,本来なら干潟の発達で海岸線が前進し数百年以上後に初めて海岸になるはずの場所(潮受け堤防の外側)から干潟が伸び始め,悪循環を一気に加速させることになりました.在来堤防を嵩上げし,潮受け堤防を早期に撤去しないと,将来は調整池沿岸全域で,より大きな排水不良となって跳ね返ってくるでしょう. あとからのこじつけ「長崎大干拓」は食料増産,「南部総合開発」は水源開発と土地造成を看板にして進められ,防災は付け足しでした.ほんとうに防災上絶対必要だったなら,目的の筆頭に掲げられたはず(そうしたほうが事業遂行に何よりも有利)ですが,そのようにはなっていません. この事実に照らして,「このような事情から、昭和20年代後半の長崎大干拓・・・」という説明は,あとからのこじつけに過ぎないのは明らかです. 防災工事を故意に怠った長崎県「背後地における防災工事などは十分には実施されておりません」と他人事のように言っていますが,長崎県は防災工事を実施すべき立場にありながら,『干拓というものをやるがために周りの海岸堤防というものはそのまま放置しておった』(1996年7月1日県議会知事答弁)のです.干拓推進のために住民の生命をもて遊ぶ行為は犯罪そのものです. | ||||||
[2]いま潮受堤防の排水門を開けたらどうなるのでしようか。 |
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●潮の流入により排水樋門の管理を再び始めなければなりません。(背後地には大きな樋門が28ケ所あります。)
潮受堤防で締切る前は、ガタ土が対岸から潮流によって運ばれ、ゲートの前に堆積していました。このため人力等で掘削しなければなりませんでした。 現在は、潮受堤防で締め切られたため、調整池水位がマイナス1mに保たれ、機械で容易に掘削できるようになり、ガタ土の堆積もなくなりました。 |
「樋門の管理がイヤ」「排水樋門の管理を再び始めなければなりません」ということは,「樋門の管理がイヤ」だから,海水を入れるのに反対というわけです.これほど身勝手な話が通用するでしょうか.諫早湾と同じ問題をかかえる佐賀県はじめ,全国の無数の干拓地で樋門の管理は当然のこととして行なわれています.諫早湾だけ破格の優遇を受けるという特権はありません. 問題は誰が管理するかです.それは全国(とくに佐賀県)の例に従うべきです.しいて言えば,国と長崎県が連帯して,この30年来地元にかけ続けてきた迷惑に対する償いの意味で,専任職員を置いて直接管理するという論理も成り立つかもしれません. ※排水樋門とは満潮時(干拓地では海面が地盤よりも高くなる)の海水逆流防止のために,堤防についている一種の水門です.干拓地に樋門はつきものです.管理を効率化するため,クリークを整備して,樋門の統合,近代化を進めるべきです. 参照 干拓の方法(樋門の説明を含む) 佐賀県では重機を投入佐賀県は潮の干満がある干潟で重機を使って潟土の浚渫を行なっています.諫早湾も佐賀県も干潟の性質は超軟弱で同じです.長崎県だけ重機が使えないというのは,長崎県の技術水準が低いか,干拓推進の目的で故意に怠っているかのいずれかです. 参照 佐賀県の潟土対策 | ||||||
●背後地の既存堤防や排水樋門が古くなっており、背後地の農地に海水が流入することにより、農作物に塩害が発生しやすくなります。
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佐賀では通用しない「堤防老朽化の理由」諫早湾の堤防が低いのは干拓が行なわれていないためではなく,長崎県が『干拓というものをやるがために』(1996年7月1日県議会知事答弁)故意に放置してきたためです.樋門についても同様です.大規模な海岸堤防で知られる佐賀県東与賀町の大授海岸では戦前(1934年)に作られた海岸堤防が,建設省の手によって1960年から2度(1回目は6.1m,2回目は7.5m,いずれも東京湾平均海面を基準)にわたり嵩上げされ,1997年からは耐震性強化のための改修(緩傾斜化)が行なわれています.ここの干潟では農水省による「佐賀干拓」(2度目の堤防嵩上げの後に干拓計画中止)が計画されており(戦前の堤防であること,前面干潟に干拓計画があることの2点は諫早湾とまったく同じ),二重投資(佐賀干拓が完成すれば,嵩上げは不要)になるところでしたが,きちんとした整備がなされました. 参照 佐賀の堤防
佐賀県東与賀町大授の堤防2回の嵩上げ跡が鮮明にわかる.上から3分の1のところにある黒い線が1回目の嵩上げによる天端(てんば),下から3分の1の黒帯が上限が嵩上げ前の天端. この事実に照らせば,諫早湾では森山町田尻の国営諫早干拓(1964年完成,諫早湾干拓とは別物)以外はすべて建設省直轄事業で嵩上げされるはずでした.この40年間,長崎県は干拓中止を恐れ,改修を妨げ続けてきました. | ||||||
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どの「問題」も理由になりません
●必要なら補強すれば済むことです.
●干拓事業の中止が議論されているとき,「工事が遅れる」との理由で海水導入に反対するなど,あまりにも的外れです.また,農地造成の中止あるいは遅れがどうして「漁業振興の遅れ」になるのでしょうか.ここに見えるのは,干拓推進のために漁民を脅迫する強権政治です. | ||||||
[3]いま排水門を開けたら、ノリ不作の原因が究明できないおそれがあります。有明海の漁業不振に関して「水門を開けて調査せよ」との意見がありますが、原因がわからないままで水門を開けると、真の意味での公正で科学的な検討ができなくなります。有明海ではノリだけでなく、タイラギや魚なとが獲れなくなってきています。ノリ不作の直接的な原因は、福岡、佐賀、熊本、長崎の有明4県研究機関の統一見解として、高水温や大量降雨、晴天続きなど例年にない異常気象によって珪藻赤潮が発生し、栄養塩が少なくなったためとされています。また、諫早湾干拓からの排水量は有明海にそそぐ河川からの流入量の3%です。さらに、有明海の環境悪化の原因としては、筑後川大堰、熊本新港などのプロジェクト、旧炭鉱海底坑道の陥没、さらには、ノリ養殖の増加や酸処理問第等の要因が総合的に影響し合っているという指摘があります。これらを総合的に調査する必要があります。 |
論理のすり替え問題は,高水温や大量降雨、晴天続きのときに,なぜノリ不作が起こったかです.長崎県の論理は,建物の屋根を壊しておいて,「部屋が水浸しになったのは雨が原因だ」と言っているようなものです.「筑後川大堰、熊本新港などのプロジェクト、旧炭鉱海底坑道の陥没、さらには、ノリ養殖の増加や酸処理問第等の要因」があるとしても,「諫早湾干拓」を免罪する理由にはなりません.工事の始まりや締めきりとともに,まず諫早湾で異変が始まり,時間を追って周囲に広がっているという事実をどう説明するつもりでしょうか. | ||||||
諫早湾の自然的条件によってもたらされたこれまでの悲しい歴史をくり返さず、地域の方々の生命と財産を守り、安全な暮らしを未来へ手わたすために、長崎県は国営諫早湾干拓事業の早期完成をめざします。
長崎県
■この広告に関する問合せは:長崎県農林部諫早湾干拓室電話O95-822-1319 |
この広告には「農地の必要性」は一言も書かれていません.つまり,農地造成は中止しても構わないわけです.防災上有害無益な不動産開発=農地造成=干拓事業をやめて,純粋に防災に徹することこそ,正しい解決のあり方です. 佐賀県有明海沿岸の自然的条件は諫早湾と瓜二つです.佐賀県に学べば,防災問題解決の道は開けます. 参照 佐賀県の防災 |
ここに掲載する長崎県の資料は「もっと知ってもらいたい諫早湾干拓事業」(長崎県のホームページ)から,著作権法第32条第2項の規定に準じて転載しています.
(参考)著作権法第32条第2項
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