洪水シミュレーション豪雨があと1時間続いていたら

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1999年7月23日の集中豪雨

2000年11月15日 裏山関係資料改訂(より精度の高いデータを入手しましたので,あらためて計算いたしました.)

 1999年7月23日に諫早市を襲った集中豪雨は比較的短時間で終わったため,1時間雨量が100mmを超えた割りに被害が小さくてすみました.「あと1時間降っていたら大変なことになっていた」という話が聞かれましたが,実際にどうなのか計算してみました.

流量の計算

計算に使った資料

 建設省の流量観測所のうち,諫早市街地にある裏山と埋津の観測結果が,『速報1999.7.23長崎県諫早集中豪雨災害』(建設省長崎工事事務所発行)に掲載されています.また,裏山と埋津の流域およびその付近にはいくつもの官公署で雨量を観測しています.これらの資料をもとに計算を行ないました.

計算の方法

 裏山と埋津のそれぞれについて,ティーセン法という方法で流域全体の平均雨量を計算しました.ついで貯留関数法という方法をあてはめて,雨量と流量の関係式を定めました.
 こうして求めた関係式を使用し,ピーク雨量が実際より1時間長く続いたと仮定して,流量を計算しました.

計算結果

 計算では1時間ごとのデータを使っているため,細かい変化は再現できません. そのため,多少の誤差が出ることを頭に置いて,結果を見てください.
 実際の状況ピーク雨量があと1時間続いた場合の想定
裏山
裏山の場合  実際の最大流量は674m3/s,計算上の最大流量は691m3/sです.シミュレーション結果は現実に近い(観測値に一致させるための補正値は674/691となる)ことになります.これをもとに豪雨があと1時間続いた場合を想定すると最大流量941m3/sが出ます.補正すると918m3/sとなります.これは計画流量810m3/sを1割ほど上回る値です.
埋津
埋津の場合  実際の最大流量は140m3/s,計算上の最大流量は167m3/sです.シミュレーション結果は現実よりやや過大になります(観測値に一致させるための補正値は140/167となる).これをもとに豪雨があと1時間続いた場合を想定すると最大流量205m3/sが出ます.補正すると172m3/sとなります.
流出係数 上記の結果から合理式(ラショナル法)で用いられる流出係数(1秒あたり降水量のピークに対する流量のピークの比率)は,裏山・埋津とも実際の観測値で約0.6,豪雨があと1時間続いたと仮定した場合の予想で約0.8-0.85となることがわかります.

水位の計算

 洪水痕跡の状況から,裏山や眼鏡橋(高城橋の下流)あたりでは等流に近い状態だったことがわかっていますので,流量と水位の関係はマニングの公式を用いて計算しました.埋津については水位観測所付近で場所により断面形の変化が激しいため,等流計算は行ないませんでした.

使用したデータ

 裏山の水位,流量は上述の建設省資料を使用しました.眼鏡橋の水位データは当博物館の痕跡調査によるものです.河川断面形は建設省の『本明川横断面図』を使用して平均的な形状を決定しました.さらに裏山については河床・高水敷の勾配,眼鏡橋については痕跡調査による水面勾配を使用しました.

計算手順

 実際の流量・水位および河川断面形状と勾配をもとにマニングの公式により粗度係数を求めました.出てきた結果は一般的に用いられる値の範囲内に収まっています.この粗度係数と断面形状・勾配および,豪雨があと1時間続いた場合を想定したときに予想される流量をもとにマニングの公式を使用して,水位を計算しました.

計算結果

 訂正 下の表の勾配の数値を1桁誤って表示していました.訂正してお詫びいたします.なお,粗度係数や予想水位は正しい勾配の値により計算されていますので変更ありません. (2000/04/24)

 水位・堤防高の基準は東京湾平均海面.
 実績予想
裏山
(5km900地点)
勾配0.0040
粗度係数0.030
水位(T.P.)11.11m 11.71m
堤防高(T.P.)13.05m
眼鏡橋
(4km500地点)
勾配0.0015
粗度係数0.033
水位(T.P.)6.74m7.62m
堤防高(T.P.)7.43m

 この結果を見ると裏山ではいくらか余裕がありそうですが,眼鏡橋では堤防高を19cm超えてしまい,氾濫が予想されます.計算の誤差,河床の状態などにより,仮に本明川が氾濫しないとしても,豪雨が続けばその分,内水氾濫が増大します.

※2000年11月15日の改訂前に使っていた流量データを基にした計算では,ぎりぎり氾濫しないという結果になっていました.今回は逆に氾濫するという結果になり,計算誤差を考慮すると,氾濫するかしないか微妙なところであると考えられます.いずれにしても極めて危険な状態には変わりありません.

 ここで詳細は示しませんが,今回豪雨では裏山流域に降った雨の約10%は地中に浸透したことが計算の過程でわかりました.もし,前日までに長雨が続いて地面が飽和状態になっていたら,さらに洪水が激しくなっていたはずです.また豪雨時間が長引くだけでも飽和していきます.「干拓事業のおかげで被害が軽くて済んだ」などという根拠のない宣伝(「調整池の水位を低く保った」ことは理由になりません)をやめ,本明川の状態が決して安全ではないことを肝に命じて治水対策を進める必要があります.


このページを含む<諫早湾と防災>閉鎖保存版は有明海漁民・市民ネットワーク事務局が著作者から全面的な管理を委ねられ、独自に複製・配布・公開しています。著作者は諫早湾の問題からは手を引いており、質問等は受け付けていません。

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